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2011年6月15日 (水)

島の生活に憧れる

井上荒野の小説『切羽へ』を読んだ。たまたま手に取ると、前からその名をよく聞くが、読んだことのないこの作家が私と同じ年の生まれだったこと、めくると九州の方言が出てきたことが理由だ。「明け方、夫に抱かれた」という出だしもよかった。

主人公の女性セイは、かつて炭坑で栄えた離島で、小学校の教員をしている。夫も同じようにその島で生まれた画家だ。ある日、若い教師が東京から赴任してきて、セイの心が揺れる。物語はそれだけだ。揺れるだけで何も起きない。しかしその揺れ具合が、しっとりと生理的に伝わってきて、生々しい。

性は偏在している。本土から定期的に愛人が会いに来る同僚の女教師。死ぬ間際にボケて、亡くなった夫の淫夢を繰り返す老女。そもそも主人公の名前がセイだ。そんな中で、新任教員との間に何かが起ころうとして起こらない。最後まで手も握らなかった。

舞台は、何もないようでそれゆえに幸せに満ちた離島。子供たちの楽しそうな毎日。正直なところ、読みながら島の生活に憧れてしまった。セイが夫に付いて東京で数日暮らす時、かつての友人たちに会う。「けれども、二人の活発な話を聞きながら、私が考えていたのは、島にはなにもかもある、ということだった。私は単純に不思議になった。何もかもあるが、今、話そうと思うようなことはないのだった」。

この小説家のほかの作品も読んでみたい。「荒野」という名前はどこから来たのだろうか。

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