『ぴあ』最終号に涙する
雑誌『ぴあ』の最終号が発売中だ。これは絶対に買っておいた方がいい。まずすごいのは、1972年の創刊号がまるまる復刻されて付録についていることだ。もちろん私はその頃は地方の小学生なので買ってはいないけれど、長髪でラッパズボンの4人が並ぶ表紙から始まって、すべてが懐かしい。
1980年代前半に地方で学生生活を送った私にとって、『ぴあ』は「東京」そのものだった。年に1度は東京に行き、友人宅を泊まり歩いて芝居や映画や展覧会を見て回った。『ぴあ』を手にするたびに、その情報量の多さに目がくらくらした。そして東京で会社員になってからも、必ず発売日に『ぴあ』を買った。満員の通勤電車の中で「はみだしYOUとPIA」を読みながらにやにやと笑っていた。
たぶん2005年くらいまでは毎号買っていたと思う。自分が関係したイベントが大きく取り上げられた時の嬉しさといったら。編集部に親しい人もできて、頼んで載せてもらうようにもなった。買わなくなったのはいつからか記憶にないが、インターネットで簡単に情報が得られるようになったからに違いない。
最終号で楽しいのは、75年からの及川正道氏のすべての表紙が掲載されていることだ。80年後半から90年代前半は記憶に残っている表紙がいくつもある。広末涼子など表紙になった人(17回!)が、何人も写真つきでコメントを寄せているのも楽しい。
そういえば90年代半ばに『ぴあ』の営業マンは、1千万円広告を出せば表紙にします、と言っていたが、そのシステムは続いたのだろうか。
この39年間といえば、日本が高度成長を背景に消費社会に大きく舵を切った時代だった。新聞が取り上げないマイナーな上映会や芝居を紹介しようとして始まった『ぴあ』だったが、マイナーはメジャーになり、すべては巨大な資本主義にからめとられていった。そしてこの震災、原発と新しい時代が始まって、『ぴあ』は終わった。
これから39年分の『ぴあ』は、時代の証言として貴重な資料になるだろう。朝日や読売のようにPDFで検索できるようになるとありがたいのだが。
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