静止画像の力を考える
渋谷で試写を見て、恵比寿で飲み会に行く間に1時間ほど余裕があったので、ガーデンプレイスの東京都写真美術館に行った。ここは友人のフランス人が「わざと入口をわかりにくくして人が来ないように設計してある」と言ったくらい、建物が目立たない。しかし最近の展示は、映像系以外はおおむねおもしろい。
今回心に残ったのは、9月25日まで開催の「江成常夫写真展 昭和のかたち」。昭和の時代を撮ったものかと思っていたら、大半が今世紀になって、第二次世界大戦の遺物を撮ったものだった。つまり、真珠湾やガダルカナル島や硫黄島に行って、そこに残っている戦争の爪痕をほじくり返して写真に収める試みだ。
例えばあちこちに野ざらしになった日本兵の遺骨や遺物。地下壕や砲台、海中に残る戦艦や戦闘機。あるいは旧満州で今も使われている元司令部やホテルや開拓団の家。戦争が終わって60年もなるのに、「モノ」は消えていない。
後半はひたすら老人の顔が続く。中国の残留日本人、広島や長崎の原爆を生き延びた人々。原爆の跡が残る人も見えない人もいるが、凝視する大判の写真は忘れがたい。
その後駆け足でコレクションによる「こどもの情景」展と「鬼海弘雄写真展」を見たが、「江成常夫写真展」の衝撃が強かったこともあって、あまり印象に残っていない。鬼海弘雄の浅草の人々を撮ったポートレートはもう一度見た方がいいかもしれない。
写真は、日頃見落としているものや忘れていたものを顕在化させ、記録として残してゆく。動く映像が主流になっても、静止した画像の持つ力は強い。
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