「こんな人いるなあ」という映画
年をとると、映画を見て身につまされることが多い。映画の一シーンに、「こんなことあったなあ」と思い出す。11月に公開されるマイク・リーの『家族の庭』は、どの登場人物もまさに「こんな人いるなあ」という感じで、見ていて他人事とは思えなくなってくる映画だ。ロンドンが舞台の話なのに。
主人公の夫婦、トムとジェリーはたぶん50代で、仕事と生活を楽しみ、バランスの取れた生活を送っている。彼らの息子もようやく彼女を見つける。映画は彼らの普通の一年を、まわりの人々と共に淡々と描く。
まわりの人々は彼ら夫婦ほど幸せではない。ジェリーの職場の同僚メアリーは、男運に恵まれず、ワインとタバコが手放せない。見ていて本当にイタイ存在だ。トムの幼馴染のケンはもまた独身で、アル中だ。メアリーに迫るが、相手にされない。
春、夏、秋、冬と4部に分けて進んでゆくが、最後の「冬」でトーンが一変する。トムの兄ロニーの妻が亡くなって、トムたちは地方のロニーの家に行く。その家の暗いことと言ったら。憔悴しきったロニーに、葬儀の途中で現れた息子が罵りの言葉を浴びせる。人生では、よくある場面だ。トムはロニーを自分の家に誘う。そこで出会うメアリー。
「秋」まででちょっと単調になりかけた物語が、「冬」で新しい過酷なリアリティが現れて、ぎゅっと引き締まる。考えてみたら、冒頭にもイメルダ・スタウントンが出てくるもう一つのきつい物語が挿入されていた。この展開の巧みさ。
結局一年たっても、何も解決していない。しかしみんなそれぞれの状況の中で、どうにか生きてゆく。そして見ている我々は「こんなことあったなあ」と思いながらスクリーンを後にする。原題のAnother Yearは、まさに「こうしてまた一年が過ぎた」という感じだ。巨匠の熟練の技が味わえる一本。
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