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2011年8月31日 (水)

加藤陽子著『それでも日本人は「戦争」を選んだ』はなぜおもしろいか

2年ほど前に出て、この種の本にしては珍しくベストセラーになったというので、気になってはいた。最近1930年代の日本について調べだしたので、思い立って読んでみた。確かに、ウケた理由がよくわかる。

この本は東大教授である加藤氏が、高校生に向けて、なぜ日本は戦争をしたのかを講義したものだ。それも政治家の日記や内外の最新の研究などを駆使しながら、高校生に質問をする形で新たな日本史を構築しようとした試みである。従ってこれまでの日本史とずいぶん違うが、実に説得力がある。

この本でおもしろいのは、当時の日本の国際的な立場を明らかにしながら、各国の思惑を明確に説明していることである。例えば、1904年の日露戦争で勝った結果として、欧米に公使館ではなく大使館を置けるようになったということなんて知らなかった。要はそれから日本が、欧米に対して対等に扱われるようになったのだ。日露戦争は満洲事変の大きな理由になっていることも驚いた。「満洲事変の根っこには日露戦争の記憶をめぐる日中間の戦いがあった」。

満洲事変を蒋介石が国際連盟に訴えたのは、二国間で話し合うと共産党をはじめとする反対勢力に批判されやすいという国内問題が理由であったことも、彼の日記からわかる。それに加えて連盟に訴えることで日本の動きを国際世論によって牽制することもねらったという。そうして日本は連盟から経済制裁を受けることを危惧して、やむなく脱退したことが書かれている。決して「松岡外相、堂々と退場」などではないようだ。

こんな事実がぼろぼろ出てくるが、一番驚くのは、1938年に駐米中国大使となった胡適という人が1935年に唱えた「日本切腹、中国介錯論」だろう。
彼は豊かな軍備を持った日本の勢いを阻止できるのは、アメリカの海軍とソ連の陸軍しかないと考える。「アメリカとソ連を日中戦争に介入させるには、中国が日本との戦いを正面から引き受けて2、3年負け続けることだ」と蒋介石に提案する。そうすると世界中が中国に同情し、香港やフィリピンの領土の危機を感じた米国やソ連が、中国各地で疲弊した日本軍を見て参戦するに違いないという。結果として日本は切腹し、中国が介錯するという、恐ろしくリアルな話だ。胡適のこの発言は、最近の中国の学者の研究でわかったことだという。

そうして日本の支配層の誰もが、真珠湾攻撃のことを、日本が速戦即決以外に勝てる方法はないと考えていたこが示される。物資の8割を外国に依存する日本は、戦争をする資格がないとまで言った人もいる。結果は長期戦になり、日本兵の多くは敵の攻撃ではなく餓死で死んだ。

結局は、戦略負けという印象が残る。国際的な戦略を欠いた国、という点では今も変わっていないのかもしれないが。

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