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2011年9月20日 (火)

イケムラレイコの不思議な造形

竹橋の東京国立近代美術館の「イケムラレイコ うつりゆくもの」展が良かった。この人の作品は、1990年代にまだ銀座に佐谷画廊があった時に見た記憶があるが、それからいろいろなグループ展で見てきた。大規模な個展は日本で初めてだろう。

根本にあるのは、舟越桂や奈良良智と同じようなポストモダンで無国籍な人物像だ。しかしイケムラの少女像は、大きくひねっている。首がなかったり、鼻がなかったり、あるいは倒れていたり。壊れかけた少女を取り巻く無限の自然。

乱暴な形と色の奥にある、生の優しさ。キリストを描いたようでありながら、アジア的な自然観と人間観。人間と動物の境目がなくなり、デッサンと油絵が、絵画と彫刻が矛盾なくつながってゆく。

会場構成も良かった。作品には一切、キャプションがないため、見る者は作品世界に集中できる。4室目の「横たわる人物像」の部屋に入った瞬間、完全にやられてしまった。真っ暗い空間の壁に浮かぶ絵。そして床には、横たわる少女の彫刻がごろごろと並んでいる。まるで中世の木彫のようだ。その黙示録的風景に息を飲んだ。

イケムラはドイツに住んでいるという。経歴がおもしろい。1970年に大阪外語大のスペイン語学科を卒業してスペインに渡り、翌年からセビリア大学で美術を学んだという。そして今はドイツに住んでベルリン芸術大学の教授を務めている。たぶん万博から高度成長、そしてバブルに向かう日本にいたら、美術作家にはならなかったのではないか。少なくともこれほど力のある作家にはなれなかっただろう。この40年間の大騒ぎの日本には、人間と世界へのかくも深い洞察を生むような環境はなかったように思える。

10月23日まで。その後三重に巡回。必見。

常設展会場で開催されていた「レオ・ルビンファイン 傷ついた街」という写真展もよかったが、イケムラの衝撃が大きすぎた。

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