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2011年10月 4日 (火)

車谷長吉の小説を初めて読む

車谷長吉という小説家の名前は知っていたが、ついぞ読んだことがなかった。先日酒を飲んでいた時に、朝日新聞の土曜beの「悩みのるつぼ」欄が話題になり、とりわけこの作家の回答がすばらしいと評判になった。後日、そこにいた映画会社社長の美女から、おススメの小説リストが送られてきた。

とりあえず読んだのは、文庫の短編集『忌中』。最初の「古墳の話」を読みだして愕然となった。自分が結婚したことが私小説風に書かれていたかと思うと、記念に大皿をくれた妻の友人が死刑制度反対運動をしているので嫌いだという話になる。それから死刑がなぜ必要かを述べる。ん?

これは実は導入で、そこから高校時代の思い出が語られる。古墳が好きという共通の趣味を持つ同級生と仲良くなったが、デートの日に来なかった。後で強姦殺人されていたことがわかる。その犯人が懲役16年というのが、「私」は納得がいかない。だから死刑は必要だという。それにしても高校時代の同級生と古墳で仲良くなる描写は鮮烈だ。こういう純粋な物語と陰惨な話が隣合わせになるところに、車谷らしさがあるのか。最後に39年たって、「私」はデートをするはずだった古墳で一人で慰霊祭を行い、祝詞を読む。その痛切さ。

次の「神の花嫁」は、38歳の貧乏な小説家と金持ちの美女との純愛が描かれる。彼女とは舟越保武の「病醜のダミアン」という文章に互いに共感して接近するが、結局彼女は別の男性と結婚する。その理由の一つが、小説家が神田神保町で立小便をしていたのを、車を運転していた彼女に見られたというものだ。「私は二度目に東京に出てきてからは、生活は萬事、田舎者の流儀で押し通していた」。純愛と滑稽さが同居する。

そのほか、「三笠山」は高校時代から好きだった幼馴染みと結婚できなかった男の話。女が結婚に失敗してようやく再婚するが、バブル崩壊で借金がなくなり、一家心中を図るというもの。幼馴染みの女は、好きでもない男性と結婚する前に主人公の前に現れて、大阪十三の宿で「抜かずの三連発でまぐあいをした」。
「忌中」は、病気の妻を殺して自分も死のうとするが死ねずに、妻を押し入れに入れたまま遊び暮らす男の話。

どれにも痛切な純愛があり、陰惨で滑稽な悲劇がある。呑気な自分の毎日とはほど遠い、ゆえにおもしろい。この作家はしばらく読み続けたい。


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