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2011年10月28日 (金)

まだまだおかしい東京国際映画祭:その(5)

人間の表情をきちんと見せる映画はおもしろい。そんなことを考えさせる映画をコンペで2本見た。1本はロドリゴ・ガルシアのアイルランド映画『アルバート・ノッブス』、もう1本はセドリック・カーンのフランス映画『より良き人生』。

『アルバート・ノッブズ』には、のっけから驚いた。男装のグレン・クローズが無表情で、ホテルの老給仕を演じる。声も出さず、表情からはあらゆる感情が消え去ったような感じだ。ストーリーは、若い頃に男性として生きる決断をしたホテルの老給仕の日常を淡々と描くもので、ほとんどがホテルの中で展開する。

最後までたいしたことの起こらない渋い映画で、ひたすらにグレン・クローズの表情の変化を楽しんだ。とりわけペンキ塗りの男性が実は女性だったことを知って驚いたり、このペンキ塗りと女性用のドレスを着て海に行ったり。グレン・クローズはプロデューサーも務めただけあって、まさに彼女の映画だ。

『より良き人生』は、レストランの経営を目指すコックと子供を連れたレバノン出身の女性の出会いとその後を描く。無理な借金をしてレストラン用に郊外の一軒家を買うが、開店前に資金が回らなくなる。幸せなのは最初の15分くらいで、それから1時間半はこの2人がひたすら落ちてゆく過程が描かれる。主人公のギョーム・カネを始めとして、出てくる人々の表情がリアルで豊かだ。大きなアップも多いが、微妙な表情の変化だけで物語が進んでゆく。

この監督は『ロベルト・スッコ』や『リグレット』もそうだったが、我を忘れて何かに打ち込む人間を描く名人だ。カメラは小さな表情や、しぐさ、まわりの雰囲気の変化までも丹念にとらえ、情熱と焦燥を描き出す。今回はコンペが不作という評判がもっぱらだが、『より良き人生』が賞を取らないようでは審査員が悪い(彼らを選ぶのは映画祭だが)と言わざるをえないくらい傑作だ。これくらいは日本で公開してほしい。

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