映画『トーキョードリフター』のシンプルな強度
弾き語りをしながら夜の東京をさまよう男を撮っただけなのに、何とも魅力的な映画だった。撮影は大地震後の東京。ところどころ照明が消えていることを除けば、何の変哲もないいつもの街だ。
新宿の繁華街で歌いだすかと思うと、世田谷の住宅街で歌う。あるいはバイクに乗って運転する。雨が降っている。カメラは可能な限り長回しで追いかける。それにしても照明もなく、映像は荒い。
しかしながら、歌がいい。昔風のフォークのようだが、どこかクールで等身大だ。最後に明け方の川のそばで歌う。これまで街の中で歌っていただけに、解放感がある。もう朝方だ。画面は真っ黒になっても歌は続く。そしてバイクを運転する映像がもう一度映る。
プレス資料を見て驚いた。本当に一晩で撮った映画なのだ。撮影に使ったのは家電量販店で売っている1万円のHDカメラ。そこに500円の広角レンズをつけたらしい。撮影しているのは、『マイ・バック・ページ』や『海炭市叙景』などを担当した近藤龍人。あえてチープな機材を使い、たった一晩で撮っているのに、最後まで映像から目が離せない。松江哲郎という監督は、相当のつわものだ。シンプルが一番強いことを知っている。
松江監督の前作『ライブテープ』は見ていないが、この映画と同じく前野健太が歌っているという。見てみたくなった。この映画は、大震災後の少し暗くなった東京を撮った貴重なドキュメントとして残るだろう。12月10日公開。
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