『叛逆の時を生きて』に考える
なぜか学生運動に妙に関心がある、正直に言うとシンパシーを感じる。だから『光の雨』や『実録 連合赤軍』など、あの時代を扱った映画はだいたい見ている。数年前に朝日新聞夕刊の「ニッポン人脈記」で連載していた「反逆の時を生きて」は、学生運動の活動家を追いかけたもので楽しみにしていた。単行本になったのは知っていたが、ようやく読んだ。
単行本にあたって、大幅に書き足してあるので、一人一人の生き方が細かく書かれている。日大、東大、早稲田、明大などの大学闘争から、高校闘争、民青や教員の側の闘いから、成田闘争や連合赤軍まで、44人もの人々にインタビューしている。当時の思い出やその後の人生についてめいめいが重い言葉を残ししている。現代において、学生運動というものを理解するのに、もっともわかりやすい本かもしれない。
いくつか知らないこともあった。東大闘争は全共闘の代表が大学院生の山本義隆だったように、大学院生や助手の存在感が大きかったこと、安田講堂に立てこもって逮捕された377人のうち、東大生はわずか65人だったこと。安田講堂にいた明大の米田隆介が、機動隊に投石をするのに、当たると大けがをするのでわざとはずして投げたという話や、誰もが捕まると覚悟して立てこもったことなども驚きだ。
現在の姿もおもしろい。日大全共闘議長の秋田明大氏は、郷里の瀬戸内海の島で自動車整備工になっている。彼は9.30の大衆団交で勝ったと思ったという。50代になって中国人女性と結婚する。東大生で安田講堂にいた石川理夫は、今や温泉ライターとして有名だ。連合赤軍であさま山荘の前に捕まった植垣康博は、98年に49歳で出所し、静岡でスナックを経営する。なぜか彼も34歳下の中国人の妻がいる。
誰もが運動をしたことを後悔せず、今まで引きずっている。そんな中で政治家になった菅直人や仙石由人、町村信孝らの話は、どこか痛みがなく、精彩を欠く。
誰もが、自分の生きてきた道を正しいと言い聞かせて、生き続けている。そこに無理が生じる時に、家族、つまり両親や妻、子供の存在は大きい。この本を読んでそう思った。
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