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2011年11月13日 (日)

新藤兼人が語る乙羽信子

このブログで前に『挫折する力 新藤兼人かく語りき』のおもしろさについて書いたが、今度は『新藤兼人 私の十本』という本を読んだ。こちらは共同通信の立花珠樹という記者のインタビューで、『挫折する力』が半分以上他人について語っていたのに対して、こちらは自分の映画作りについて語っている。

これは新藤兼人の秀作10本について、新聞記者が丹念に聞いてゆく、という形を取っている。インタビューの後には記者による「雑学メモ」とか「ここが見どころ」とかまでついていて、映画にくわしくない人にもその魅力がわかるように、懇切丁寧に書かれている。

その分、『挫折する力』に比べると自由奔放さが足りない。映画の作り方や撮り方についてよりも(それは結局映画を見ればいい)、彼自身の人生の話の方が楽しいし、彼の同時代人をめぐる秘話の方が興味深い。

それでもこの本が感動的なのは、3度目の妻となった女優の乙羽信子の話が随所に出てくるからだ。まず、本を開けると『一枚のハガキ』撮影時の彼の写真があり、その裏に乙羽と並んだ写真がある。カラーは2枚だけだ。裏の写真は新藤が背広にネクタイ、乙羽は和服でまるで金婚式か何かのような出で立ちだ。そこに「いつでも僕よりか一歩後ろに下がってますよ。僕より大きく見えないように」という文が、第9章から引用がされている。

9章を読むと、それが2人の結婚の時の写真だとわかる。結婚は乙羽が「生涯孤独だったものだから、新藤家に入って、新藤家の表札が上がったところに住みたい」と頼んだものだという。写真も彼女の希望だ。そして引用した言葉となる。

2人が出会ったのは『愛妻物語』の時。亡くなった妻をモデルに脚本を書いたものだが、乙羽を見た時、妻に似ていると感じたという。「そのへんの路地裏を歩いているような、お姉さんみたいな感じ」。

乙羽の最後の映画『午後の遺言状』の時には、乙羽が「撮り方が早い」と抗議する。「私が病気だから急いでいるんじゃないか」と。抗がん剤を打ちながら撮影が終わって試写を見ると、乙羽は「これ、老人ばかり出ているから、受けるだろうか」と心配していたという。

「乙羽さんは結婚した後も、僕のことを先生と呼ぶんですよ。……僕も『乙羽さん』」。かつての日本人は、こういう生き方をしていたのだと思った。

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