岡山日帰りとポール・オースター
岡山に日帰りで行ってきた。昔お世話になった方に講演を頼まれたからだが、引き受けて後悔した。自分の専門分野についてではなく、「外国語が私にもたらしたもの」という何とも恥ずかしいテーマだったのだ。
結局自分のこれまでの人生を話すことになり、自慢話みたいでみっともないと思いながらも、妙に興奮して1時間余りを終えた。地方のナイーブな大学生たちは、幸いにしてそれなりに面白がってくれたようだった。
驚いたのはその後のことだ。英語を教えているという中年の女性が現れて、「今日の話とは関係がないが、ポール・オースターの小説で、無声映画の方がトーキーよりもより表現が豊かだという言葉があった。これについてどう思うか」と聞かれた。
実を言うと、私は行きの新幹線で何年かぶりにポール・オースターの小説を読み始めていた。『幻影の書』という2002年の作品で、無声映画のスターについて研究している男の話だった。質問した女性に、トーキー以降、映画がストーリーや音楽重視になったことを説明した後に、「実はたぶん私は今その本を読んでいるのです」と取り出して見せた。すると女性は「Oh! "The Book of Illusions"!」と叫んで、派手な動作で抱きつかれそうになった。
ポール・オースターの小説は物語の中にいくつもの物語が派生してゆくことが多いが、このような偶然はまるで彼の小説世界のようだと思った。今思い出しても、その女性が小説から出てきたような気がする。
岡山まで3時間20分。新幹線の往復はさすがに疲れたが、今回はグリーン車に乗ってみた。バブル期に乗った頃はさして快適だと思わなかったが、今回久しぶりに乗ってみて、その座り心地の良さに驚いた。年を取ると、こうしたことがありがたい。
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