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2011年11月29日 (火)

『ストロンボリ』は亡命者の映画だった

久しぶりぶりにロベルト・ロッセリーニの『ストロンボリ』をDVDで見て、そのしたたかさというか、周到さに驚いた。かつて見た時は、シチリアの女たちの魔女的な目つきが強烈に印象に残ったのだが。

今回見て発見したのは、イングリッド・バーグマン演じる女が、放浪者であるということだ。まず最初にさまざまな国から来た女たちが、将来を話し合う場面がある。イタリア語に加えてスペイン語、フランス語、ドイツ語が飛び交う移民たちの会話だ。それから舞台はアルゼンチン大使館に移る。2、3分しか映らないし、字幕も不十分でわかりにくいが、彼女が自らの出自を語る。どうも移民の申請をしているようだ。リトアニアに生まれて、チェコ、ユーゴと転々とし、ナチスに捉えられてイタリアに来ているという。結婚したことも話している。移民申請は書類不備で却下。

そのシーンの直後に、結婚した2人がストロンボリに着く様子が移される。男にとっては最高の妻だが、女にとっては、アルゼンチンに行けなかったから当面暮らす場所を求めて結婚しただけのことがよくわかる。そう思ってみると、彼女がこの島のすべてに幻滅する表情がリアルに見えてくる。美人の妻を迎えて上機嫌の男が哀れに見えてくる。

女は灯台守の男の家に行って、誘惑しようとするし、次には牧師をも誘惑してお金を得ようとする。最後に火山を乗り越えようとするのも、灯台守と山の向こう側で落ち合うという約束のうえの話だ。

女の熾烈な生への渇望を妨げるのは、シチリアの霊のようなものだ。黒装束に身をまとい、一言も話さずに彼女を非難の目で見つめる女たち。歌を歌いながらどんどんマグロを取る漁師たち。そして火山から流れる溶岩や巻き起こる灰。

バーグマン演じる女は、地球を放浪する亡命者という極めて20世紀的な存在だ。その放浪にシチリアの土地の精霊が抗う。そんな映画に見えた。
最近出たDVDのボックスの1本だが、映像が実にクリアーだ。

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