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2011年12月16日 (金)

スコセッシの新境地:その(2)

スコセッシの新作『ヒューゴの不思議な発明』は、映画が誕生した頃の映像がぎっしりと詰まっている。そのうえに、映画史的にほぼ正確だ。メジャーな劇映画で、これは初めてのことではないだろうか。

まず一番の見どころは、16分強に及ぶ大作『妖精たちの王国』の撮影シーンだ。これまで写真や図面でしか見られなかったメリエスのスタジオ=グラス・ステージが再現されて、大きな水槽の中で泳ぐ魚や、その奥で妖精を演じる女性たちが見える。数分撮ってはカメラを止めて、セットや衣装を変えて再び撮るという当時の撮影方法がよくわかる。

ヒューゴと仲良くなったメリエスの養女が、パリの映画アカデミー図書館(そんなものは当時ないが)で映画の本をめくるシーンもいい。リュミエール兄弟の「列車の到着」や「工場の出口」、エジソンの「ヴァイオリンを弾くディクソン」や「キス」に続き、ポーターの『大列車強盗』、イタリア史劇『カビリア』(イタリア映画好きのスコセッシらしい)、キートン、ルイズ・ブルックス、チャップリンが出るサイレント機の傑作が続々と現れる。

2人が見る映画はハロルド・ロイドのコメディだ。メリエスの映画が出てくるのは後半。まず、メリエスのアパートで有名な『月世界旅行』が上映され、メリエスを讃えるイベント、ガラ・メリエスでは、『アラビアン・ナイト』や『音楽狂』、『不可能を通る旅』、『日食と満月』などが次々と上映される。彩色や染色によるカラー作品も多く、その映像の自由奔放な想像力に、改めて圧倒される。

あるいは、ヒューゴがメリエスのアパートで、秘密の箱を開けると、メリエスの映画のためのデッサンが何百枚と宙に舞うシーンなどは、3Dの効果も抜群で、うっとりしてしまう。

当時のパリを再現し、これだけの映像やデッサンを集めたのは、映画狂のスコセッシならではだ。もちろん映画史的にいくつかの疑問点もある。1931年が舞台だが、メリエスがモンパルナス駅でおもちゃを売っていると雑誌に書かれたのが1926年で、「ガラ・メリエス」が開かれたのは1929年だ。「映画アカデミー博物館」はないし、その頃にヒューゴが「サイレント映画フェスティバル」でロイドの映画を見ることはありえない。「サイレント映画」という概念が広がるのは1930年代だろう。あるいは、この映画でメリエス夫人がメリエスの唯一の理解者として重要な役割を果たすが、この頃メリエスと住んでいたのは、かつての愛人ジュアンヌ・ダルシーのはずだ。それにメリエスには何人も愛人がいた、云々。

しかしそれらは作劇上の工夫に過ぎない。大事なことはスコセッシが3Dを使って、映画初期の傑作を「正しく」蘇らせたことだ。映画の誕生期の先品が最新の3D技術と結びついて、新たな魅力を見出すなんて、ほかの誰ができただろうか。

映画を愛するすべての人々にとって必見の映画。3月9日公開


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