ブレッソンに近づくダルデンヌ兄弟
今春公開のダルデンヌ兄弟の新作『少年と自転車』を見て、ロベール・ブレッソンの域に近づいたなと思った。そのシンプルな構造、感情を表さない登場人物、ドラマの盛り上がりに数回かかるクラシック音楽など、まるでブレッソンの『抵抗』や『スリ』のような宗教性を感じる。
物語は簡単だ。施設で暮らす少年シリルは父親が引き取りに来ることを期待して日々を過ごすが、その願いはかなわず、偶然会った美容師サマンサに少しずつなついてゆく。それだけなのだが、シリルの思いは痛々しく、見る者の心を突き刺す。彼の心は表情には出ないが、行動でわかる。父親役のジェレミー・レニエはダレデンヌ兄弟の常連だが、優しいようでここまで冷たくなれるか思う。しかし顔には出ない。サマンサ役のセシル・ドゥ・フランスも、いかにもどこにでもいそうなフランスの女を、ほとんど無表情に、しかし力強く演じる。
手持ちカメラで追う少年の行方を見ながら、ハラハラする。父親の居場所がわからないシリルがサマンサと知り合ってホッとしていると、シリルは不良少年と付き合いだし、犯罪をそそのかされる。そこからシリルがようやく立ち直ったかと思うと、被害者の息子に再会して、追われる。
題名にもなっている(原題でも)自転車のシーンがいい。例えばシリルが父親に「二度と来るな」と言われてひたすら夜の街を自転車で走るシーン(ここにベートーベンが重なる)はひたすら悲しいし、その少し後にシリルがサマンサと一緒に明るい太陽のもとで川べりを並んで自転車をこぐシーンは心が躍る。そしてラストで少年はもう一回、よろよろと自転車に乗る。
ダルデンヌ兄弟の映画のなかでは、もっとも心が和む作品かもしれない。過剰な感情表現や説明過多な映画が溢れる現代において、その過激なまでの単純さによって人生の真実を露呈させる稀有な映画である。既に来年のナンバーワンが決定したかもしれない。
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