主婦の闇
最近は平日の昼間にヒマな時もあるので、スーパーやスポーツクラブに行くと、主婦たちがたむろしているところに出くわす。そんな時、聞こえてくる会話に耳を澄ますと、これがすごい。主に子供かダンナの話だが、我々の知らない、闇の世界だ。そんなことも気になって、角田光代の『森に眠る魚』を読んだ。
東京の文教地区で「お受験」、つまり小学校入試を迎える5人の主婦が主人公だ。学歴や夫の仕事はさまざまだが、とにかくその地区に集まり、マンションで暮らしている。最初はみんな仲良くなって食事会などを開くが、子供の「お受験」をきっかけにだんだん離れてゆく。
この小説がうまいのは、それぞれの登場人物に入り込んで、人間のいいところ、悪いところをあますところなく見せることだ。もっともハイクラスな感じのかおりが、一番大衆的で金のない繭子に対して言う。「うちの子どもはきれいなものしか見せないって決めているの。こんなところで堕落させられるなんてたまったもんじゃない」。それに対して繭子は返す。「きれいなものだけなんて笑っちゃう。マダム、あの子の机の引き出し、見たことあるの?気味の悪い人形がごっちゃり詰まっている引き出しだよ」。
この小説はもちろん、1999年のに二歳の女児が近所の主婦に殺された「文京区幼女殺人事件」がモチーフだ。小説に出てくる地理は明らかに護国寺の周辺のようだ。実は私の自宅から近いので、時々この地区を通るバスに乗ることがある。朝早く乗ると、幼稚園や小学校に子供たちを連れてゆくお母さんたちがたくさん乗ってくる。みんな身なりのいい、美人のお母さんばかりだが、その裏にこの小説のような世界があるのだろうか。
この小説のなかに、お受験のための情報の探り合いを就活に例えるくだりがある。「就職試験のこと、覚えていない?しょっちゅう顔を合わせる同士で飲み会をしたり、連絡し合ったりして、さりげなく情報もまわして、そうしながら相手の動向をさぐり合って、結果がでればすぐ他人にもどっちゃう、あの感じと似ているんじゃないかしら」。
今の大学生もそうなのだとしたら怖い。毎日大学生を見ながら、本当に仲のいい、くったくのない奴らばかりだと思っている私は甘いのも知れない。
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