初めてロアルド・ダールを読む
最近、原発本やビジネス本ばかり読んでいたので、何かバカバカしい小説を読みたいと思っていたところ、ロアルド・ダールに巡り合った。まず、最近誰かがエッセイで紹介していた『来訪者』を手に取ったが、これがいい。
いわゆる艶笑譚という言い方がぴったりだろうか。男女のセックスの話を延々とおもしろおかしく語っている。少しも生々しくなく、ユーモアたっぷりに。
『来訪者』は4つの短編からなるが、とりわけ最初の「来訪者」にはまった。亡くなった金持ちのオズワルド叔父さんから、ある時全28巻の日記が届く。そこには彼が出会った何千という美女について書かれていると手紙が入っている。この本はそのうちの1946年の日記の採録の形で語られる。砂漠で車が故障したオズワルドは、運よく金持ちの車と巡り合い、その家に行って、金持ちの妻(もしくは娘)と寝てしまうが、実はその女は、という話。
「驚くべき技術、飽くことを知らぬ情熱。信じがたい持続力。一回ごとに新しい複雑なテクニックを用いる。おまけに私の知らぬ巧緻をきわめた神秘的なスタイルの持ち主だった。彼女は偉大な芸術家であり、天才であった」。この具体性を欠いた馬鹿らしいほどの抽象的な表現。
ほかの3篇も同じような艶笑モノでおかしかったが、このオズワルド叔父にはまってしまった。調べてみると、『オズワルド叔父さん』というずばりの長編があったので、読んだ。17歳の叔父は、スーダンに行って、カブトムシの粉末からできた強力な媚薬を入手する。それを大量に購入して、大金持ちになるという話だが、そこからの展開がすごい。最初はその媚薬を、パリ駐在の各国大使に試させて、各国の皇帝や王室から発注を受ける。その次にその薬を使って有名人から精液を搾り取り、その精子を金持ちの女たちに売りさばくに至る。
その有名人がおかしい。ルノワール、モネ、ピカソ、ストラヴィンスキー、プッチーニ、ラフマニノフ、プルースト、フロイト、アインシュタイン等々。1917年時点の天才か極めて有望な人々だ。それぞれにエピソードが工夫されている。彼らを攻略するのは女友達の美女ヤズミンだが、プルーストは男性が好きなので、男装してバナナを股に付けて出かける。ヤズミンはラフマノニフとスタヴィンスキーが驚くほど似ているという。「二人とも体は小さいけど、顔はとても大きくてごつごつして、大きなイチゴみたいな鼻。きれいな手。小さな足。細い脚。そして巨大なナニ」。なんだか妙にリアル。
結局、最後にオズワルドは騙される。オズワルドの座右の銘は「女は一度だけ」。「変化を好むすべての行動的男性に勧めていることである」。壮大な大人のファンタジーだ。
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