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2012年1月10日 (火)

『幕末太陽傳』のデジタル修復版に考える

テアトル新宿で『幕末太陽傳』デジタル修復版を見て、驚いた。実は数か月前にDVDで見ていたのだが、全然違う。品川宿のセットが濃密な空間として迫ってくる。廊下の奥の方からやってくる人物が鮮明に見えた。

この作品が、ジャン・ルノワールやウィリアム・ワイラーばりの奥深い画面を持つことに初めて気がついた。さらに驚いたのは、画面のあちこちを走る小動物。後半、座敷牢に入れられた若い男女がいちゃいちゃするシーンに、あんなにネズミがいたとは知らなかった。道のあちこちに見えるニワトリや犬。DVDでは何となく気づいていたが、こんな存在感はなかった。そして、聞き取りにくかった早口のセリフがほぼ全部聞き取れる。

白黒の美しさを堪能した。白から黒にいたるさまざまなグラデーションが、鮮明に見える。2003年の小津安二郎生誕百年の時に、松竹はデジタル復元したDVDを発売したが、その頃から技術は相当進んだのではないか。誰かくわしい人に教えてほしい。

劇場の方にも確認したが、今回の上映は35ミリだった。つまりフィルムをデジタルに落とし、復元したうえでさらにフィルムを作るという作業をしているはずだ。デジタル上映用のDCPも作ったらしいので、そちらも見たい。フィルムで撮った作品をデジタルで見た時にどんな差があるか、この目で確認したいと思う。

今回のようなデジタル復元をしてフィルムまで作る例はあまりない。記憶にあるのは『七人の侍』と『新平家物語』くらいだ。このようなお金のかかる作業ができる(つまりそれでもペイする)映画は数本に限られているのが残念だ。映画大国日本の豊かな文化遺産のうち、日本の進んだデジタル技術の恩恵を受けるのが、わずか数本とは。

本来なら百本単位で名作のデジタル復元が進み、それがデジタル技術を通じて学校でも公民館でも見られるようにできるはずだ。薄型テレビやスマホの開発ばかりしないで、こういうところに企業も国も目を向けてほしいと思う。

デジタル復元自体お金がかかるが、それをフィルムに起こすのはさらに200万円くらいかかると聞いた。しかし映画を半永久的に保存するには、今のところこの方法しかないはずだ。もちろんデジタル素材しかない最近の作品も。

この復元版を劇場でフィルムで見られる機会は、今回を逃すとなかなかないだろう。テアトル新宿は今週金曜までの上映なので、ぜひこの贅沢を味わって、映画という文化遺産の今後について考えて欲しい。

付記:このブログを読んだ方から連絡があり、フィルムに起こすのは最低でも500万円以上とのこと。それから上映は今週末までではなく、20日(金)まででした。

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