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2012年1月27日 (金)

『ミシュラン 三ツ星と世界戦略』にちょっとがっかり

ある友人に勧められて、国末憲人著『ミシュラン 三ツ星と世界戦略』を読んだ。おもしろくてためになる本だったが、期待していた「世界戦略」の部分があまりなくてがっかりした。ミシュランと言えば、2007年末に料理ガイドの東京版が出た時に大騒ぎになった。

当時何かの間違いで新聞記者をしていた私は、東京版がいかにおかしいかを書いた。翌年末に2009年版が出た時にもまた批判を書いた。その時は総責任者のジャン=リュック・ナレ氏にもインタビューした。異様に明るく、いかにも業界人然とした男だった。

私の批判は、ミシュランが東京版に星を出しすぎたことにあった。そのうえ本家のミシュランは写真もなく、説明もほとんどなかったが、東京版は大きな写真を使い、長くて退屈な解説があった。その分、星なしの店の掲載はなかった。この甘々の大衆路線は日本をバカにしている証拠だと腹が立った。

しかしこの本はそんな怒りとは関係なく、ミシュランのトップを含む関係者に何人もインタビューをし、ミシュランについて書かれた本を何冊も読みこんだ、真っ当なものだ。ミシュランという地方都市の同族会社(トヨタみたいだ)の歴史から始まって、1900年にガイドが作られた経緯やその歴史的変遷を丁寧に記述している。実際にたくさんの三ツ星の店を訪れ、シェフにもインタビューしている。朝日新聞元パリ支局長ならではの取材力の賜物だ。

私はこの本で知ったが、ガイドのナレ総責任者は2010年12月に辞任していた。この本によれば、ナレ氏の方針を「ミシュランも、それまでの伝統を捨て、グローバル化に対応しようと“食卓”を“料理”と言い換えた」とまとめている。つまり、フランスの三ツ星店は内装や雰囲気すべてを含む評価だったが、日本やアメリカでは“料理”を楽しむ店を評価することにしたということだ。その背景にはフランスでも「ネオ・ビストロ」と呼ばれる、肩の凝らない店が流行っているという現象があることもこの本は説明している。

また、そもそもの外食文化の違いの説明も的確だ。「欧州の高級レストランは、そのスタイルや発想の起源をフランス革命前の宮廷に求めることができる。革命が起きて美食は庶民に広がったが、その場所であるレストランには貴族的、非日常的な側面が強く残った。その点、日本をはじめとするアジア各地では外食文化が庶民のものとして発展してきた。スタート地点から異なるのである」。

この本はナレ氏について、「判断は難しいが、彼の業績を評価するにはまだ早い」とする。私としては彼の間違いをはっきりと示してほしかったから、この本を物足りないと思っただけかもしれない。

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