上野千鶴子と1968
「映画祭1968」で講演したゲストの中で、上野千鶴子氏の話がとりわけおもしろかった。忘れないうちに書き残しておく。生まれた年を考えれば全共闘世代のはずだが、彼女はこれまでの本ではそのことを語っていないと思う。
彼女はまず自分が成人式を京大のバリケードの中で祝ったことを語った。バリバリの全共闘だったわけだ。しかしその運動の中で、女性は二流戦士か、救援の天使か性欲処理の対象でしかなく、抑圧された存在だったという。全共闘は大学や学生の自由を求めて闘っていたが、その運動が女性の自由を抑圧していたという構造だ。
日本のウーマン・リブは、その反省を経て、1970年に田中美津の「便所からの解放」というビラから始まった。すなわちこれまで男にとって女は、母性のやさしさ=母か、性欲処理機=便所か、という二つの存在としてあったことからの解放だ。
ちなみに「便所」というのは、戦時中皇軍兵士が慰安婦を指す隠語であった。これが全共闘の男たちまで続いていたとは。
「1968」に関しては、私大が国立に比べていかに苦しんだかを述べた。東の日大、西の立命館が代表格で、多くの負傷者や中退者を出し、大学は守らなかったという。また学生運動は最初の高揚期は短く、その後の長い時期が暗く、悲惨だとも。
講演後に上映されるゴダールの『東風』については、「退屈な映画で、当時は何であんなにありがたがっていたのでしょうね」。そして「まあ、社会を変えるために映画で何ができるかを考えた映画でしょう」。
そして上野氏は最後に若者に呼びかける。「今、時代は閉塞しています。若い人の仕事は減る一方です。かつて私たちが大人たちに向かって抗議したように、私たちに向かってこんな世の中に誰がした、と声を挙げてください」。わずか20分あまりだったが、心に残った。
確か少し前の「現代思想」で、彼女は小熊英二氏と「1968」について語っていたはずなので、読んでみたい。
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