ジャクソン・ポロックの戦慄
恵比寿映像祭で退屈な展示ばかり見たので、何かまともな美術を見たいと思って行ったのが、竹橋の東京国立近代美術館の「ジャクソン・ポロック展」。これが予想以上の大当たりだった。絵画に戦慄を覚えたのは、昨秋の「酒井抱一展」以来だ。
ポロックといえば、キャンバスに絵の具を投げたり、垂らしたりするアクション・ペインティングくらいのイメージしかなかった。やったもの勝ちというか、最初にこの手法をやったから有名なのだろう、くらいに思っていた。
そんな甘いものではなかった。初期のメキシコやインディアン美術に影響を受けた作品から、1940年代前半には一枚、一枚がピカソ、ミロ、カンディンスキー、クレーなどを思わせる絵画に取り組む。その痛ましい試行錯誤。
そして1947年から50年までの代表作の数々。一見すると絵の具を垂れ流しただけに見えながら、じっと見ていると赤、黒、白、緑、黄色などの恐ろしいほどに計算されつくした配置が浮かび上がってくる。とりわけテヘラン現代美術館所蔵の大作《インディアン・レッドの地の壁画》には、立ち尽くしてしまった。絵画とは何か、色とは何か、形とは何か、描くとは何か、人間とは何か。あらゆる問いが渦巻いている。
そうしてその絶頂は数年で終わる。真っ白のキャンバスに黒だけを飛ばした墨絵のような試み。黒を中心にいくつかの色を塗りこめた暗い絵。ああもう後がない、と思ったところで展覧会は終わる。1956年、ポロックは飲酒運転で交通事故を起こし、44歳で亡くなっている。自分より若い。焼き尽くしたような燃焼。最後に川村記念美術館所蔵の繊細な小品があるが、その有難味はそこまでの歩みを見てこないとわからない、と思った。
作品数は多くないが、展示や照明がいい。テヘランの大作は部屋に一点しかなく、部屋の半分は暗い。遠くにひっそりと大作が一点だけあって、それを見る人々が影で見える。何と心地よい空間だろう。
本物の美術を見たい人には必見の、今年ナンバーワンの展覧会だ。既に名古屋で開催済みで、東京展は5月6日まで。観客に若い人が多いのもいい。後半は混むと思うので、じっくり見るには早めに行くことをお勧めする。常設展会場で「原弘展」をやっていたが、これについては後日書く。
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