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2012年2月21日 (火)

どこでもいる「名もなき毒」を持つ人々

田中慎弥の『共喰い』で文学的すぎる小説を読んだ後に、軽いものをと思って買ったのが、宮部みゆきの『名もなき毒』。読みながら「ああ、こんな人、いるいる」と思って気楽に読み進めると、その毒は意外に強かった。

物語は、財閥の娘と結婚した平凡な男、杉村が主人公。職場の困ったアルバイト女性とのゴタゴタと、偶然巻き込まれる殺人事件を、杉村が素人探偵のように解決してゆく、ちょっとゆるいミステリー仕立てだ。新聞連載だったこともあり、小さな事件がいくつも起きてさざ波のように広がってゆく展開がうまい。

何といっても恐ろしいのは、アルバイト女性、原田いずみだ。勤め先で自分のミスを棚に上げて、社員を攻撃し、嘘ばかりつく。解雇されると本社の会長に言いつけたり、杉村につきまとったり。調べてみると履歴書は嘘ばかりだった。彼女の狂気は、行くところまで行ってしまう。本当に怖い。

この本を読んでいて、これまでに自分が経験した「困ったバイト」たちのことを考えた。一番記憶にあるのは、最初の職場の中国人女性。どういう経緯で採用したか全く記憶にないが、恐ろしいほどの美少女だった。ある時私は招待券をもらった「台湾映画祭」に誘ったが、翌日彼女は「あの人は中国人の恥を私に無理に見せた」と言いふらした。その後、彼女に手を差し伸べようとする全員の悪口を言った。どうしようかとみんなで悩んでいたら、10日くらいたって急に来なくなった。これ幸いとそのままにしてしまった。

あるいは二つ目の職場に現れた女性は、元小学校教員という触れ込みで、履歴書にパソコンの基礎はできると書かれていたが、ワードもメールの送り方も知らなかった。それどころか電話もきちんと取り次げない。この女性は一週間後に自分から、「みんなに迷惑をかけるようなので辞めます」と言ったのでほっとした。

ほかにも、とんでもバイトさんは、いっぱいいた。社員との結婚だけを目標にしていたバイトの女性は数限りなかったし、「あの人は管理職と関係を持って、それをネタに社員にしてもらった」という女性までいた。もっとも多くの場合、正社員になればそこそこ仕事をするようになる。

バイトや派遣という制度が、「名もなき毒」たちを増やしているのかもしれない。

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