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2012年2月23日 (木)

元ロック歌手のショーン・ペン

パオロ・ソレンティーノという監督は、東京の「イタリア映画祭」ではこれまで『愛の果てへの旅』に始まって、『家族の友人』、そしてカンヌで審査員賞を取った『イル・ディーヴォ』が上映されてきたが、映画館での公開はなかった。6月に初めて劇場公開されるのが、『きっとここが帰る場所』だ。

2005年に『愛の果てへの旅』を見た時から、そのスタイリッシュで禁欲的な画面に魅せられた。毎月、大量の札束を銀行に収めに来る男を淡々と描いたこの作品に続いて、マフィアと西部劇がシュールに組み合わさったような『家族の友人』に驚いた。そして『イル・ディーヴォ』では、戦後イタリア政治史の不条理な世界を実に流麗に見せてくれた。しかし、どの映画でもその溢れるような才能に驚きながらも、どうしても感情移入ができなかった。

今度の映画は、ショーン・ペンが主演で初めての英語の映画だし、舞台もアイルランドと米国。これがどう出るか不安だったが、蓋を開けてみたら大当たりだった。何より元ロック歌手という設定のショーン・ペンがいい。派手なメイクをしているが、いつもカートやキャリー・バッグを引きずりながら、老人のように弱々しく小さな声で話す。それが見ているだけで可愛らしく、一つ一つの言葉もいい。

彼がニューヨークでデイヴィッド・バーンに会って、映画の題名の歌を聴き、話をする場面は妙にじんと来るし、その後出会う少年がその歌を歌うのに合わせてギターを弾いてやるシーンがすばらしい。そのほか、劇中の音楽も元ロック歌手の心情を表しているみたいで心地よい。もちろん、イタリアのアート系映画の撮影を一手に引き受けるルカ・ビガッツィのカメラは、魔術のように動き回る。

ショーン・ペン演じる元ロック歌手は、アイルランドのダブリンの豪邸に静かに住んでいるが、父の危篤のニュースを聞いてアメリカに渡る。父の死後、かつてナチスの収容所にいた父が追い求めていた元SS隊員を代わりに息子が探す。ダブリンの妻や近所の娘、そしてアメリカで出会う人々。ショーン・ペンはみんなにソフトに率直に語りかけ、魅了してゆく。

ナチスの残党を追いかけるストーリーはちょっと弱いが、最後に出てくる元SS隊員の表情や裸の姿には、何となく納得してしまう。とにかく、ロックのメイクをしたヨボヨボのショーン・ペンの放浪と出会いが心に沁みる秀作だ。

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