あまりに文学的な田中慎弥
芥川賞を受賞した田中慎弥の『共喰い』を読んだ。芥川賞を「もらって当然」とか、「都知事閣下のためにもらっといてやる」とか記者会見で言って、物議を醸した人だ。そのキャラのおもしろさで本が売れているらしい。
さて実際に読んでみると、ずいぶん昔風の文学的な香りがした。主人公は17歳の少年で、父は二人目の妻と暮らす。自分を生んだ母は近くに住んでいるが、片手の手先がない。ある時少年は父の浮気相手と関係を持つ。父は少年の恋人を犯す。
まさに「ともぐい」状態の濃密な家族が描かれる。父親はセックスのたびに女を殴る。17歳の自分は一つ上の恋人とセックスをすることにしか興味がない。狭い世界を行き来するだけの毎日。自分はだんだん父親に似てくる。すべての醜悪さが揃っている。そして父親と自分の女関係が交差する時に暴発するエネルギー。
文体は入り組んでおり、読みづらい。初期の大江健三郎か、中上健次を思わせる。濃密な土地の匂いも、大江の四国、中上の紀州に続く、田中の下関かと思ってしまう。記者会見ではその二人の文体に似ているがという質問に対して、その二人は影響を受けそうで読まない、と答えたという。これはかつて読んでいたが、今は読まないという意味だろう。
個人的にはこうした「文学的」な小説はもう苦手になってしまった。同じ変人が書く小説なら、車谷長吉とか西村賢太のようなスコーンと抜けたタイプのものが好きだ。
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