子供から大人まで楽しめる今年のアカデミー賞
私が大学生の頃、アカデミー賞は『愛と追憶の日々』や『愛と哀しみの果て』のような、感動の押し売りのような映画ばかり受賞していたので、全く信用していなかった。ところが最近は『ノーカントリー』とか『ハートロッカー』のようなずいぶん尖った映画が受賞するようになってきた。ところが、今年はずいぶんわかりやすい作品が並んでいる。
『ヒューゴの不思議な発明』(11部門ノミネート)と『アーティスト』(10部門ノミネート)のおもしろさについては、既にここに書いた。ともに設定のうまさと鮮やかなテクニックで観客を感動へ導く。最近見た『ファミリー・ツリー』(5部門ノミネート)と『戦火の馬』(6部門ノミネート)もまた、子供から大人まで楽しめる作品だ。
5月18日公開のアレクサンダー・ペイン監督『ファミリー・ツリー』は、試写会の受付の人たちがハワイのレイを首にかけていたので驚いたが、確かにハワイの魅力をたっぷりに散りばめた映画だっだ。ジョージ・クルーニー演じる主人公は、ハワイの王族の末裔で弁護士をしているが、ある時妻が事故で昏睡状態に陥る。そこで発覚した妻の不倫を乗り越えて、主人公が二人の娘と生き延びてゆく話だ。
まさに楽園のようなハワイの自然と、ハワイらしい緩やかな癒しの音楽。その執拗な繰り返しは観光映画かと思うくらいだが、そこで暮らす人々もまた、みんな優雅で、見ていて気持ち良い。長女の反抗も、その友人の軽率な行動も、そして妻の不倫相手の話も、結局は大きな調和の中に流れてゆくような気持ちになる。ハワイ好きにはたまらない映画だろう。
3月2日公開のスティーブン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』もわかりやすい感動ものだ。少年が育てた馬が戦場に送られ、さまざまな人々と出会い、最後には…、という展開で、一頭の馬を軸に戦争を描くスピルバーグの手腕が冴える。戦争のシーンの迫力は満点だし、自然を描いたいくつかの絵のようなショットは、スピルバーグならではだ。
映画を見ながら、昔の映画、とりわけ西部劇を見ているような気分になった。まず馬を率いる人間たちの姿は西部劇だし、馬に巻く赤と白の小旗のような小道具の使い方もジョン・フォードみたいだ。『プライベート・ライアン』のような残酷なシーンがほとんどないのも、何やら古めかしい。
無意識のうちに映画の歴史を踏まえながら、誰にもわかりやすい感動大作を作るというスピルバーグらしい作品だ。
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