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2012年2月28日 (火)

仏映画『アーティスト』アカデミー賞の秘密

昨日のアカデミー賞発表で一番驚いたのは、『アーティスト』の躍進ぶりだ。『ヒューゴの不思議な発明』と同じ5部門受賞とはいえ、作品賞や監督賞を取ったのだから圧勝と言えよう。フランス映画なのになぜ、と思っていたら、先週の仏誌『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』にその秘密が書かれていた。

まず、カンヌのコンペに直前に入った事について、プロデューサーのトマ・ラングマンは、カンヌの総代表のティエリー・フレモーに「これを入れるときっと何か起こるから、特にジャン・ドゥジャルダンには」とメールを書いた事実を明かす。実際、カンヌで主演男優賞をもらっている。さらにこの映画の米国配給権をカンヌ前に買ったハーヴェイ・ワインスタン(ミラマックスを創立したオスカーの常連)が、「この映画をコンペに入れないと、次のいい映画はベルリンに持って行くから」とカンヌのフレモーを脅したことを、フレモー本人の口から語らせている。

カンヌ後、ラングマンとワインシュタインは、この映画を9月30日以降にフランスで公開することを決める。そうすれば外国語映画賞のフランス代表に選ばれる心配がないからだ。外国語映画賞に選ばれると、作品が小さく見えるというのが、ワインスタインの考えだ。

監督の話だと、ワインスタインが米国の公開にかけた宣伝費は、1000万ユーロ=10億強。製作費とほぼ同じらしい。そしてワインスタインは犬のアギーを最大限に宣伝に使った。あらゆるプレミアや記者会見に出させ、メディアの人気者にしたという。10歳の犬は授賞式にも出ていたが、キャンペーンに完全に疲れ果て、アカデミー賞の後は引退らしい。

そして広告では「かつてハリウッドが作ったような映画、もう一度ハリウッドが作れるような映画」というキャッチで、平均年齢62歳のハリウッド会員のノスタルジーに訴えた。もはやアメリカ映画の扱いで、主演のジャン・ドゥジャルダンはアメリカのテレビに出まくり、ハリウッドを活性化したとして、ロス市長から名誉市民の鍵をもらったと書かれている。

これらすべて、ワインスタインの10億円の作戦。結局はフランス映画の勝利でも何でもなくて、百戦錬磨のアメリカ人の手練手管とお金だったわけで、今朝の朝日新聞のように「アカデミー会員は米監督の仏回顧映画より仏監督のハリウッド回顧を選んだ」と書くのは、ナイーヴ過ぎだろう。

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