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2012年3月 4日 (日)

この30年の「ニッポンの思想」

2009年に出た本だが、佐々木敦著『ニッポンの思想』を読んだ。1980年代から「ゼロ年代」までの日本の思想や評論の流れについてわかりやすく説明した本で、ためになると同時に、懐かしくもあった。大学生の時の浅田彰の登場を、鮮烈な思い出として記憶している自分にとっては。

まず1983年の浅田彰『構造と力』の大ヒットが、朝日新聞の一字の誤植から始まったとは知らなかった。版元の「剄草書房」の別の本が朝日の書評欄で小さく紹介された時、間違えて「頸草書房」と載ってしまった。版元から抗議があって、訂正記事の代わりに11月30日の「若者*わかもの」のコーナーで『構造と力』を浅田彰の写真入りで紹介したという。いかにもありそうな「バーター」だ。それから本は売れ出した。

さらに「朝日」のマッチポンプは続く。84年1月24日の読書欄で「出版界に異変 ニューアカデミズム」という記事で浅田と『チベットのモーツァルト』を書いた中沢新一を持ち上げた。これが「ニューアカデミズム」、後に「ニューアカ」となる流行語の最初らしい。そして『構造と力』は15万部売れた。

1983年当時大学3年生の私は、『構造と力』を読んで「難しいフランス現代思想がようやくわかった」と勘違いして、翌年の夏にはフランスに留学してしまった。パリ大学でクリステヴァやドゥルーズの授業に潜り込んで嬉しかったが、何もわからなかったのは言うまでもない。『ニッポンの思想』では、浅田と中沢のニューアカブームによって、年長の蓮實重彦や柄谷行人にスポットが当たったと書かれている。

ハスミさんまで出てくると、影響というか、被害甚大である。私のその後の30年はこの人々によって操られてきたような気がしなくもない。結果としては、自分はそうした思想的な追求とは全く別の方向に行ってしまったが。

90年代は、福田和也、大塚英志、宮台真司の時代だという。考えてみたら私はこの3人が嫌いだった。佐々木によれば、80年代の4人が理念的だったのに比べて、90年代の3人は、リアル=現実を受け入れることから始まっているという。3人とも天皇を容認しているのだから。よくわかった。

そしてゼロ年代は東浩紀の一人勝ち。それは東が社会学や心理学に近づき、現実的なジャーナリズムを目指したかららしい。ツイッターやフェイスブックに明るい未来を見る彼の文章を読んで信じられなかったが、その理由がわかった。結局自分は、今だに80年代に囚われている。

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