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2012年3月30日 (金)

ずしりと重いカサヴェテス

5月26日から始まる「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」のうち、『こわれゆく女』復元ニュープリント版の試写を見た。映画を見終わって、立ち上がれないほどずしりと重いものを感じたのは久しぶりのこと。もちろんカサヴェテスなんだから、それはわかっていたけれど。

スコセッシ率いるThe Film Foundationが、ブランドのグッチの支援を得て復元したというが、ちょっと赤茶けたカラーの色合いがいい感じだし、小さな音も拾う音響もいい。それを新しくなったシネアーツ試写室の、通常の映画館並みのスクリーンで見たのも大きかった。DVDではこの重さは味わえない。

約2時間半、映画はジーナ・ローランズ演じるメイベルの精神が異常をきたしている様を描くだけだ。夫ニック役のピーター・フォークが約束したのに仕事で帰ってこないため、夜の町に繰り出すところから始まる。翌朝夫が仲間を連れて帰って来ると、明るく振る舞ううちにおかしくなる。その気まずさ。

3人の子どもやニックの母親、そして精神科医との狂気のやりとりは、まさに居たたまれない。そして突然「6ヶ月後」として病院から帰って来るジーナ・ローランズ。たくさん招待していた友人を追い返しているところに現れる。親戚だけが残るが、彼女はやはりおかしい。

絶えず正常と異常を行き来するようなジーナ・ローランズが圧巻だ。そしてその狂気に共振するようなピーター・フォーク。彼ら二人が作りだす圧倒的な気まずさのなかで、重い時間が流れてゆく。

今回見て思ったのは、シナリオが実に周到に作られていることだ。各シーン、狂気のギリギリまで持って行ってプツンと終わる。撮影も一見手持ちカメラで追いかけているだけのようだが、ジーナ・ローランズが子供に再会する瞬間に彼女の顔をドアップで撮ったり、その次に彼女が「白鳥の湖」を歌う時にはその姿を見せなかったり、細かく計算されている。「白鳥の湖」を彼女が踊ったり、プッチーニのオペラをニックの同僚が歌ったりする音楽の入れ方も絶妙だ。

こうした即興的な効果を頭で計算するのではなく、直感でつなげてしまうようなカサヴェテスの演出はやはり別格だ。

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