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2012年3月22日 (木)

ケン・ローチの新境地

ケン・ローチの映画に、はずれはない。長編第一作の『夜空に星のあるように』(67)の時から、労働者の悲惨な毎日を描きながらも、見ごたえがある作品を作り続けてきた。『この自由な世界で』(07)や『エリックを探して』(09)でだいぶ世界が変わってきたと思っていたが、3月31日公開の新作『ルート・アイリッシュ』(10)には驚いた。

まず、ケン・ローチがイラク戦争を描いたことがビックリだ。数本の歴史ものを除くと、彼は英国に生きる庶民の日常の危機を描いてきた。イラク戦争を描いたアメリカ映画が何本も作られている中で、ケン・ローチがあえてそこに踏み込むとは思わなかった。

そのうえこの映画は、ある種劇的なラストを2つも見せる。これまでの彼の映画は、人生はドラマではないと言わんばかりに、劇的な結末を避けてきたはずなのに。この終わり方は単純すぎるのではないかとさえ思った。

しかし見終わって考えてみると、ケン・ローチらしくもある。主人公ファーガスは、お金のためにイラク行きを志願し、幼なじみのフランキーも誘う。物語はフランキーが殺されてしまったところから始まる。見ている途中で気がつくが、彼らは国から派遣される兵士として行ったのではなく、民間軍事会社(コントラクター)に高給で雇われて行ったのだ。

民間だから、国にも守られず、国際法も関係ない。兵器を持ち、平気で現地民間人を殺し、内部の拷問もある。その意味で、近年資本主義の無謀な膨張を告発し続けてきたケン・ローチの姿勢に変化はない。

そしてファーガスが軍事会社の幹部に食って掛かったり、フランキーの妻を好きになってしまったり、感情のままに動いてしまうシーンは、ケン・ローチらしい即興的な演出だ。ファーガスはフランキーの死の真相を解明するために爆走してゆく。本当に怒ると何をするかわからない、いつもの主人公像だ。

21世紀になって、ケン・ローチは単に労働者の側から社会を批判するだけではなくなった。毎回、複雑化する社会に悩みながら撮っているように思う。そして今回、彼の怒りは民間軍事会社という国際企業を告発するところまで来てしまった。

それにしても民間軍事会社のことは全く知らなかった。菅原出著『民間軍事会社の内幕』という本を慌てて買って読み始めた。映画は世界の現実を広く知らせる力をまだまだ持っている。

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