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2012年3月16日 (金)

暗澹たる『ムサン日記~白い犬』のおもしろさ

「暗澹たる」という形容詞がピッタリの映画だ。冒頭に映し出される、殺伐としたマンションの工事現場。狭い部屋での、友人の女性との性交とその女性の排尿。日本のフリーターとは比較にならないくらい、暗い。

それは当たり前だ。主人公のスンチョルは、北朝鮮からやってきた脱北者。担当の刑事に連れられて定職を探すが、125番という住民登録番号で脱北者だとわかってしまい、まともな仕事は見つからない。オカッパ頭で小太りで、どう見ても世間離れしている。

髪を切れと言われても、スンチョルはあえてそのままだ。ポスター張りの仕事をして、同業者にいじめられても上司に不当に怒られても逆らわない。カラオケバーの仕事をして我慢がならないスケベな客にも、無言の抵抗をする。まるで、正面を向いて自分の意見を言うことを禁じられているかのように。

そんなギンチョルが後半、少しだけ幸せになる。カラオケバーのホステスと讃美歌を歌って騒いだり、犬を拾ってきて飼ったり。しかし教会の「祈りの会」で自分の暗い過去を告白したあたりから、不穏な感じが画面に広がる。犬はいなくなり、友人は脱北者仲間に追われる。そして髪を切るスンチョル。

髪を切るシーンが、まるで西部劇のように荘厳だ。描かれる世界は悲惨だし、手持ちのカメラによる撮影は稚拙なのだが、映画そのものの躍動感が次第に画面を満たしてゆく。

見終わって、主演が監督自身だと知って驚いた。まるで『息もできない』ではないか。5月公開。

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