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2012年3月20日 (火)

拉致映画2本

「拉致映画」というと大げさだが、国家が関与した移住をめぐるショッキングな映画を2本見た。1本は4月14日公開のイギリス映画『オレンジと太陽』、もう1本は8月公開の日本映画『かぞくのくに』。対照的な2本だ。

『オレンジと太陽』は、英国で19世紀から1970年代まで行われてきた豪州への「児童移民」の実話をもとにしている。貧しい親が子供を施設に入れたり養子に出したりすると、いつのまにかオーストラリアに送られて、2度と会えないという信じられない話で、その総数何と13万人。映画は英国のある福祉事務所に勤めるマーガレットが、駆け込んできた豪州女性の訴えを聞くところから始まる。

監督はあのケン・ローチの息子のジム・ローチなので似たようなタッチかと思ったが、もっとオーソドックスだ。父親のような即興を感じさせる演出ではなく、マーガレットが児童移民の実態を紐解く過程を丁寧に描く。マーガレットを演じるエミリー・ワトソンの落ち着いたクールな演技がいい。それでいて2人の子どもを持つ「おばさん」らしい普通の感じも良く出ている。

かつて児童移民で豪州に渡った大人たちの、静かな佇まいもいい。映画はあえて劇的なシーンをあまり見せずに、淡々と進む。脚本も細部まで作り込まれており、長編一作目とは思えない落ち着いた演出ぶりだ。それにしても、この児童移民の話は全く知らなかったので、心底驚いた。

「かぞくのくに」は、16歳の時に北朝鮮に渡った兄が25年ぶりに帰って来る一家を描く。こちらは1959年から84年まで続けられた「帰国事業」が背景にある。総数約9万人。時代も人数も英国の「児童移民」とカブる。

こちらは、デジタルカメラによるドキュメンタリータッチのリアルな演出。井浦新(ARATA改め)演じる兄ソンホが母(宮崎美子)と再会するシーンに始まって、感情をあらわに出す妹(安藤サクラ)、息子を送り出したことを悔いる苦渋の父親(津嘉山正種)など、劇的な修羅場をどんどん見せる。だがその描き方は的確で説得力があり、それぞれの登場人物の深い痛みを感じさせる。ソンホが「白いブランコ」を一人で歌うシーンや、兄が最後に恋人と再会する場面などもうまい。

あえていえば、井浦新や見張り役のヤン・イクチュン(!)にもっと「北」の匂いが欲しかった。2人ともカッコ良すぎる気がした。監督は在日で実際に3人の兄が北朝鮮に渡ったヤン・ヨンヒなので、私の印象は現実を知らない者の幻想かもしれないけれど。

これまで光が当てられることの少なかった20世紀の影の歴史を知るために、必見の2本だ。

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