大学の9月入学と公務員採用4割減
大学で教えていると、世間のニュースが違う観点から見えることがある。最近東大が言い出した9月入学と、野田内閣が決めた公務員新卒採用4割減のニュースがそうだ。どちらも愚の骨頂だと思う。
9月入学にすれば、日本の大学生が海外に留学する数が増えると考えている教師が、本当にいたら見てみたい。そもそも内向きと言っても統計を見れば明らかだが、留学生が7万人や8万人になったのは2000年以降の話だ。80年代までは2万人前後。海外に行く数が増えるのは、単に経済の影響。昔から行きたい学生は何としても行く。
9月入学にすれば外国人学生が増えると期待するのは、もっと能天気だ。そもそも日本語のようなマイナー言語で大半の大学が授業をやっている以上、留学生の数には限界がある。理系を中心にもっと英語での授業を増やさない限り、外国人が急に増えることはないと思う。
それ以上に重要なのは授業や研究の質。いったん専任講師になれば、准教授、教授と一生が安泰の日本の大学では、教育や研究をテキトーにこなす教師が増えるのは当然だ。わざわざ外国から来て、学びたいと思う先生が日本の大学にどれだけいるか。もし本当に学びたければ、日本語だってマスターするだろう。9月入学のように制度だけを外国並みにしても、根本は変わらない。自分のことをいったん棚に上げて、そう思う。
国家公務員の新卒採用の4割減は5000人くらいに当たるらしい。これは毎年大量に採用するJR東日本やメガバンクなどの約10倍の数字だ。このクラスの企業が10社採用を止めたと考えれば、その影響は甚大だ。現代社会で、多くの若者は組織に入って働くことで成長する。最初から定職に就く機会が少なくなれば、その後のキャリアを一人で築くのはなかなか難しい。
新卒採用の4割削減を「身を切る」と表現していたが、「身を切る」とは現役職員の数を減らしたり、給与を削減することだ。あるいは議員の定員削減や議員歳費及び政党補助金のカットだ。まず民間なら当然の50歳以上の給与削減をぜひやるべきだ。そしてそれらを新卒採用に回して欲しい。
年金制度の改革で、企業は60歳の定年者を5年間再雇用することがもうすぐ義務となる。これだって新人採用の大きなさまたげだ。再雇用の人々がもらう250万や300万円で新人は雇える。今後きちんと税金や保険を払ってくれる働く若者を育てないと、日本社会はもっとひどいことになる。
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コメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 職務経歴書の採用 | 2012年3月28日 (水) 15時50分