一日を23年分描いたら
年を取ると、どんな映画にも自分が体験したことが少しはあって、身につまされることが多い。6月23日公開の『ワン・デイ』の試写状を受け取った時、「23年のラブ・ストーリー」と書かれていて、ちょっと期待して見に行った。『17歳の肖像』のロネ・シェルフィグ監督だし。
最初に出てくるのは、2006年7月15日、自転車に乗る爽やかなアン・ハサウェイ。それから時代は遡り、1988年の卒業式。これは私の世代に近い、と喜ぶ。それから2011年まで、毎年7月15日のアン・ハサウェイ演じるエマとデクスター(ジム・スタージェス)の二人の関係が描かれる。毎年、一日のみだから「ワン・デイ」。
アン・ハサウェイとジム・スタージェスの、時の経過と共に少しずつ変わってゆき、成熟してゆく感じがいい。特に2000年を越してからの2人の大人の表情は心地よい。女はまじめで教師になり、小説家に向けて少しずつ階段を登る。男はテレビの司会者として有名になり、それから忘れ去られて、自分を見出してゆく。
1998年の時に32歳というのが出てくるから、22歳から45歳までの物語だ。それぞれが別のパートナーと暮らし始め、それでも会い続ける2人。そしてそれから訪れる転機と衝撃のラスト。
撮影もいい。例えば92年の南仏のバカンスで、裸で海に飛び込む2人の表情を捉えるシーンなど、躍動感にあふれている。ロンドン、パリ、南仏、スコットランドの街の風景も丁寧に描かれている。
ところがなぜか、個人的には乗れなかった。あまりにも目まぐるしく時が移り変わるせいか、あるいはそれ以上に一日だけをどんどん見せる設定の強引さが気にかかったか。あるいはいつまでたってもプラトニックな2人にしびれを切らしたか。
たぶん、この23年の社会の変遷をもっと描き込んでほしいと思ったのだろう。90年代半ばまでは、携帯もネットもなかった。その頃とその後の恋愛は決定的に違っている気がする。あるいは、21世紀になって、9.11以降の世界的な空気の変化、人生観の変容がどこかに欲しかったのかもしれない。
それらのオヤジの感慨を別にすれば、よくできた恋愛映画に違いない。特にラストの展開は、ヨーロッパの監督ならではのクールさが際立っている。
細部でいくつか気になった。92年の南仏で、アン・ハサウェイはミラン・クンデラの小説を読んでいる。96年に彼女は当時の恋人と『死霊のはらわた3』を見に行って、その後に恋人は『トリコロール』3部作の話をする。このインテリ気取り、懐かしいなあ。
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