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2012年4月29日 (日)

たった一日だけの「イタリア映画祭」

ゴールデン・ウィーク恒例の「イタリア映画祭」が始まった。2001年に自分が始めた映画祭だが、離れて5年もたつとだんだん遠いものに感じられる。初日に見たのは、『天空のからだ』と『ローマ法王の休日』。ともにキリスト教について深く考えさせる映画だった。

『天空のからだ』は、大人の世界にとまどう13歳の少女マルタを描いた、ちょっとおもしろい小品だ。マルタは堅心式を迎える準備をしており、疑問の眼差しは、聖職者やキリスト教そのものに向けられる。南イタリアの、カトリックが生活の隅々まで沁み渡った社会における、形骸化した宗教の姿が浮かび上がる。

ある意味で何も起こらなないし、そのうえ不機嫌な少女を見ているのはあまり楽しくないが、マルタの眼差しに映る荒涼とした世界が強くい印象に残る。とりわけ後半、神父と車で十字架を運んでいて事故が起こるシーンはなかなか。

『ローマ法王の休日』は、既にパリで見た作品だし、7月の公開が決まっているが、何となくイタリア映画祭の観客の中で見たいと思った。バチカンが大きな意味を持つパリで見た時は、観客は泣き笑いして、大きな反応を見せていた。フランスの国宝級の俳優、ミシェル・ピコリが主人公というのも大きかった。

さて、イタリア映画祭の観客の反応も悪くなかった。とりわけ世界中から集まった枢機卿たちのユーモラスな表情やしぐさには、笑いの渦が広がっていた。私も前回より、さらにおもしろいと思った。

イタリア映画で21世紀になって落ちぶれたのが、ベルトルッチとベニーニで、逆に上昇したのがベロッキオとモレッティだと思う。モレッティは前作『カイマーノ』でベルルスコーニ首相を皮肉に描きながら、イタリアの現在に大胆にメスを入れていた。今回はさらに進んでキリスト教の総本山に切り込み、喜劇仕立てで人間存在の奥底を覗き込む。

会場で、ある映画関係者が「ずいぶんケレンミがありましたね」と言っていた。モレッティが今回のように色彩豊かでスローモーションや音楽を多用し、「見せる」サービスをしたのは初めてだ。枢機卿たちのバレーの試合は本当におかしいし、それを率いる精神科医を演じるモレッティは実に楽しそうだ。

そしてミシェル・ピコリが、おそらく生涯最高の演技を見せる。法王になるのを躊躇し、ローマの街を彷徨って、バスに乗る姿がいい。昔演劇をやりたかったという設定もうまく、彼を探しに枢機卿たちがチェホフの「かもめ」を上演中の劇場に集まるシーンも寓意的で、モレッティらしいひねりが効いている。モレッティにとっても最高傑作だろう。

今年の私のイタリア映画祭は、これでおしまい。今日から海外出張なので、ネット環境次第で更新ができないかも。

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コメント

初めてお邪魔致します。

「天空のからだ」、不思議な味わいの作品でした。北欧系の顔立ちの少女の髪を切るシーンと、水たまりに入るシーンがキリスト教的な寓意を感じさせて印象に残りました。また、若い世代に教義を教え込むのにここまで企業努力しているのかと、地域差はあるとは言え、少々痛ましい感じです。
 車の屋根に寝かされ山から下りてくる途中,川に投げ出されてしまうキリスト像・・・。ヘリコプターに吊るされ空からやって来た「甘い生活」の頃とは随分時代が変わってしまったのですね。
 猫と一緒の運命って!

 一方モレッティのカラフルな作品は陽性で楽しめました。バチカンへの強烈なパンチと思いきや、実は老年期のクライシスを普遍的に描いて、観る者に内省を促します。心理カウンセラー職への風刺も効いてとりわけ、出演シーンは少なかったもののマルゲリータ・ブイの「何でも保育障害」と断じるやりとりは秀逸。流石モレッティ、ステレオタイプを皮肉り、自身も役柄を楽しんで演じていて、素直に笑いがこみ上げました。
 観念したメルヴィルが遂にスピーチ、しかも即位後すぐリタイアという前代未聞の決意表明。彼が去った後のバルコニーの空虚感に、何やら日本の天皇制は?と連想が及びます。

 海外にご出張とのこと、どうぞお気をつけて。(イタリア映画祭の作品評が見られないのはとても残念です。)


投稿: pace | 2012年4月29日 (日) 23時17分

ローマ法王の休日、やっと飯田橋ギンレイで。アルバート氏の人生を見に行ったので、
二本立てのおまけでしたが、なんの、最後はお決まりの予定調和かと思いきや、
見事に気持ちよく裏切られました。これでこそ、映画。
これをセラピーの映画だとか、訳の分からない評があって、この映画の
凄さが分かって欲しいと。朝日のWEB論座に唯一まともな映画評が。
イタリアでローマ法王を虚仮にする、そこに人生があると。
凄い映画、企画して予算が付いて、きちんと完成する、それだけでも
奇跡なのに。カモメから何から何まで、特に薬で精神安定を、バレーボールに
熱中する、あの場面には痺れた。これぞ、傑作。

投稿: 上尾から | 2013年5月24日 (金) 18時08分

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