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2012年4月30日 (月)

「戦争が作る女性像」とは

最近、なぜか昔の映画に出てくる女性像が気になってしょうがない。いわゆるジェンダー研究なんて苦手だったのだが。そんなこともあって、若桑みどり著『戦争がつくる女性像』を読んだ。

副題は、「第二次世界大戦下の日本女性動員の視覚的プロパガンダ」。主な対象となるのは、絵画ではなく、『主婦之友』などの雑誌だ。絵画はそれ自体が男性中心のメディアで、男性画家が戦場を描いたものが大半だから。

『主婦之友』は、昭和18年に163万部というから、圧倒的な発行部数だ。内容は、母性賛美、家族制度の擁護、家事の知恵、皇室礼賛、特に皇后賛美などが中心。表紙の写真を見て驚くのが、カッポウ着と母子像の多さだ。カッポウ着は「本来台所で衣服を汚さないために身につける臨時的な家事労働着である。家事労働着を外出着としてユニフォーム化したことの意味は大きい。それは、「家/労働」を女たちすべてのアイデンティティとして課したということである」。

母子像というのはキリスト教だけかと思っていたが、なぜか戦時下の日本に多い。「母性や育児という人間的イメージは、戦争という暴力行為のもたらす心理的荒廃から国民を救い、すべての国民をその差異を超えてひとつの「血」に結び付け、国民国家、家族国家としての民心の統合の記号となったのである。戦時のマス・イメージが母性像に集約されるのはこのような根源的理由によってである」。そうか。

『主婦之友』の表紙は、敗戦が近づくと次第に工場で働く女性を取り上げるようになる。そして敗戦以降は、急に静物画になる。一番驚いたのは、1945年1月号の「この本性を見よ!毒獣アメリカ女」という文章。

「アメリカ女の理想は映画スターになることである。女優になれば栄華と贅沢と男狂いの極地の生活ができるからである。/性欲と物質欲と食欲とのあくことを知らぬ享楽が理想である。女性の純潔の尊さ、精神の高さなどは考えることもしない。動物そのものの生活がアメリカ女の理想である。/開拓時代に女が少なかったので自然と女が付け上がった。……職業によって経験を重ねた女どもはますます打算的、物質的、享楽的になり、親や親類などが一向に恐ろしくなくなってきた。ちり紙を捨てるように亭主を捨て、性行為において自由自在に振る舞うようになった」。これを書いたのは、男か女か。

若桑みどりは、イタリア美術の専門家だったはずだが、『レット・イット・ビー』という本に自分がアカデミズムで女性ゆえの差別を受けたかを書いていた。その怒りの経験が、人生の後半にこういう研究に向かわせたのだろう。

今日の内容は、昨日書いた予約原稿。明日から書けるかわからない。

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