古めかしい魅力の『スーパー・チューズデー』
ジョージ・クルーニーの監督作品は『グッドナイト&グッドラック』が予想以上の出来だったので、この新作も期待して見に行った。結果は、『グッドナイト』ほどの緊張感はないが、ちょっと昔のサスペンスもののような、古めかしい魅力に満ちた秀作だった。
何が古めかしいかというと、大統領選の権謀術策の内幕を描いているにも関わらず、あえて説明を省き、修羅場を見せないからだ。ジョージ・クルーニー演じる大統領は、かつて研修生と関係を持つが、彼らが向き合う場面はない。あるいはその事実を観客が知るのも、主人公スティ-ヴン(ライアン・ゴズリング)が病院に送ってゆく時だ。
スティーヴンが大統領と対峙する場面でも、その結果は見せず、後の展開で観客は知ることになる。スティーヴンの上司ポール(フィリップ・シーモア・ホフマンが抜群!)が大統領に首にされる瞬間は、遠くから二人が乗る車を映すだけ。その後のポールとスティーヴンの静かな会話の妙。
そしてホフマンを始めとして、敵陣営の参謀を演じるポール・ジアマッティ、研修生役のエヴァン・レイチェル・ウッドなど脇役もいい。役者たちのちょっとした表情の変化でドラマを見せるやり方も、昔風かもしれない。時おり出てくる顔のドアップが効いている。
大統領選の若いスタッフが騙し、騙されながらプロになってゆく過程を描いた映画だが、むしろ軽やかな印象を持つのは、こうした省略の美学からなるところが大きい。これはかつてヒッチコックでもビリー・ワイルダーでも良質のアメリカ映画ならみんなやっていたことだが、「見せる」ことに重点を置いた最近の映画には少なくなった。
『グッドナイト』に比べたら、娯楽性たっぷりだが、それでも渋い映画だ。そのせいか、封切り2日目で料金1000円の「映画の日」にもかかわらず、丸の内ピカデリーは3割も客がいなかった。この繊細なサスペンスは、映画館で味わってほしいのだが。
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