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2012年5月22日 (火)

『実録阿部定』は、よくできた恋愛映画だった

「生きつづけるロマンポルノ」という特集がユーロスペースで始まったのは知っていたが、毎回違う映画をやる映画祭方式だと、なかなか空いた時間にというわけにはいかない。日活の友人からわざわざチラシを送ってもらったこともあり、ようやく意を決して出かけた。

見たのは、田中登監督『実録阿部定』(1975)。たぶん27年前に一度見たきりだが、当時はかなりの衝撃だった。「これに比べたら大島渚の『愛のコリーダ』なんて図式的だね」と偉そうに友人に語った気がする。さて30年近くたって見てみると、異常さや極端さは感じられず、実によくできた恋愛映画だった。

まず、室内劇としての演出が的確だ。下から撮ったり上から撮ったり、手持ちで左右に動かしたり。あるいは鏡を使ったり、盥の水の反射を使ったり。蒸せるような狭い室内に閉じこもった2人の心情が伝わってくる。ひたすら増えてゆく酒徳利もいい。そして光る刃物。もちろん、宮下順子の自然で誇張のない愛の表現が絶妙だ。

ロマンポルノだから、下半身は尻を時おり見せるくらい。浴衣がかかっていたり、手前に大きなカバンがあったり。性交の場面も敢えてリアルに撮らず、一緒にいるから幸せといった感じに抑えているのがいい。その分を絶妙な言葉が盛り上げる。男の首を紐で絞めあげて「私の中でぴくぴくしている」。男根に刃物を向けて「もう誰にもさわらせないよ」。時おり入る歌謡曲もやくざ映画みたいだ。「♪惚れたあまりにやりました♪」。

美術が丁寧なのにも驚いた。部屋の中の赤を中心にした色の配置も見事だが、通りに見える兵隊や割烹着の女性など外の様子も破綻がない。男を殺した後に神社にお参りしたり、皇居前を自動車で通り過ぎたりしても、本当に当時の風景のようだ。2.26事件のラジオ放送なども効果的。

冒頭は、黒い画面で女のナレーションがえんえんと続き、「定、吉二人キリ」という文字。その後も「定5才」とか「定18才」といった短い文字が挿入され、ラストは「押収証拠品」として「包丁、腰紐、局部」。76分という長さに過不足なく詰め込まれた音と映像。

ニュープリントではなかったが、プリントもきれいだった。平日の14:45の回で客は50人ほどだから、入りは悪くない。女性専用席もあるので、まだの方は是非。私もあと2、3回行きたい。この特集は6月1日まで。

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