戦後史を語るあやうさ
海外から帰りの飛行機で、映画『Always3丁目の夕日'64』を見て、小説『悪人』を読んだ。疲れる飛行機の中では、母国語のものが楽でいい。偶然だが、行きの飛行機で読んだ『高度成長』や『東京物語』と併せて、日本の戦後史を考えた。
『Always3丁目の夕日'64』はシリーズ3作目で、前2作と同じく高度成長期の東京を語る。これまでは映画館で見ていたが、今回は「もういいや」という気分で行く気にならなかったので、ちょうど良かった。
東京タワーが燦然と輝いて見えた1960年代の東京。例によって自動車修理会社「鈴木オート」を経営する家庭とその周辺の人々の顛末だ。今回のテーマはあえていえば、集団就職で青森からやってきた「ロク」こと、むつこの結婚と東京オリンピックくらいだろうか。ナショナルのカラーテレビを始めとして、当時の商品、広告などが画面に溢れる。
東京オリンピックの虹の飛行機雲を眺める人々。ここでは全員が前向きで幸せだ。集団就職のロクさえ、医者と結婚する。そして鈴木オートで働き続ける。経済書『高度成長』で、1963年に就職就職した中学生の10年間の悲惨な軌跡の統計を見た後では、とても信じられない。この捏造された幸福感は何だろうか。
10分おきに泣かせる山崎貴の演出は、飛行機のなかでは快かった。それに加えて彼は、室内の人物配置がうまい。カットに映る表情や体の動きの演出が細かいので、思わず乗せられてしまう。第2作はいかにも続編という感じだったが、今回は結婚したロクや、小説家に育てられたが家を出た少年など、今後を感じさせる要素が巧みに埋め込まれている。このまま1970年代まで続きそうだ。
『悪人』は、バブル後の地方の悲しい物語だ。両側にパチンコ屋や紳士服店、チェーンの外食が並ぶような、長崎と福岡を結び道路で事件は起こる。『3丁目の夕日』三作目は登場人物が全員善人だったが、この映画に出てくる人々はみな捨てられたような、悲しい存在だ。舞台が私が生まれた地域に近く、そのままの方言が語られるため、妻夫木聡や深津絵里らによって演じられた映画より、ずっとリアリティがあった。
しかし、と思う。少なくとも今年の正月に会った私の中学の同級生は、誰もあんなにすさんだ生活をしていなかった。東京の都心のマンションに住む私などより、ずっと地に足がついて、余裕が感じられた。むしろ妻夫木たちの演じた未来のない若者たちは、東京に多い気がする。ここにもまた捏造された時代観、地方観がありやしないか。戦後史を語るのは何とも甘美な行為だが、同時にあやうさが伴う。
付記:間違えて『悪人』を『告白』と書き、昼頃に友人の指摘で訂正しました。
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