絵巻とアニメ
先日、「ボストン美術館展」で「吉備大臣入唐絵巻」や「平治物語絵巻」を見て、そのおもしろさに改めて驚いた。物語が左側にどんどん展開して、時間が経過してゆく絵巻の魅力を映画を学ぶ学生に伝えられないかと思っていたら、便利な本が見つかった。高畑勲著『十二世紀のアニメーション』。
副題は「国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの」で、まさにそのものずばり。アニメ監督の高畑氏が、「信貴山縁起絵巻」や「鳥獣人物戯画」など4つの絵巻がいかに映画的、アニメ的手法を用いているかを具体的な場面の写真を見せながら解説している。
「信貴山縁起絵巻」の飛倉の巻で、倉が川に流されていったり、米俵が空を飛んだりする展開が、「前進移動」「ズームイン」「クロースアップ」「オーヴァーラップ」「ディゾルヴ」といった言葉で説明されている。
「この作品の驚くべき特質は、見進むにつれて、すっかり絵物語の世界のなかに没入・同化してしまえるところにある。それはまさに映画以前にはあり得なかったと考えられてきたものだった。/映画の発明より七百五十年も前に、いったいなぜ、絵巻はこのような“時間的視覚芸術”の特質を持つことができたのだろうか」
ところでこの本をスクリーンに投影しながら授業をする前に「高畑勲の映画を見たか」と聞くと、200人近い学生で2名しか手を挙げなかった。がっかりして『おもいでぽろぽろ』『火垂の墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』といった題名を挙げたら、多くが「見てます!」。今の学生は、もはや監督の名前で映画を見なくなったのだろうか。私の学生の頃、つまりレンタルビデオ屋が登場する直前は、監督の名前は知っていても映画は見ていないことが多かったけれど。
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