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2012年6月27日 (水)

『鍵泥棒のメソッド』の不可思議な魅力

9月15日公開の内田けんじ監督新作『鍵泥棒のメソッド』を見た。この監督はこれまで『運命じゃない人』や『アフタースクール』が話題になっていたが、見ていなかった。今回初めて見て、ちょっと驚いた。

いわゆる「映画的」な画面作りはない。むしろ何気ないショットが続く。ところが見ていると、するすると物語に引き込まれて、泣き笑いをしてしまう。そんな不可思議な魅力にあふれている。

物語は、香川照之演じる殺し屋が、銭湯で転倒して、記憶を失うところから始める。居合わせた売れない役者(堺雅人)は、ロッカーの鍵をすりかえて、その男になりすます。記憶を失った男は、結婚願望の雑誌編集者(広末涼子)と出会い、金持ちになった役者は依頼人に追われる。そうして物語は二転三転する。

こう書くと、本当にくだらない三流芝居か、できの悪いテレビドラマのようだ。これが実は緻密に組み立てられた脚本で、見事に乗せられてしまう。三谷幸基のように、芝居のおもしろさを映画に持ち込んだタイプではない。俳優たちの表情やしぐさが細やかでおかしく、おまけに愛おしくさえ感じる。物語の本筋とは関係ないのに、広末演じる編集者の父親が死ぬ前に録画したビデオメッセージにさえも、思わず涙ぐんでしまう。

これは久々の正統派エンタテインメント監督かもしれない、と思った。なぜおもしろいのか、うまく言えないというのがその理由だ。もちろん綿密な脚本と共に、部屋の中にあるもの、手帳の中身、車、服などの小物から鮮やかな音楽の使い方まで、すべてが計算されつくされているのは言うまでもない。しかしそれ以上に、それぞれの俳優とその役柄が交じり合いながら絶妙な瞬間が生まれる様は、演出のうまさとしか言いようがない。荒川良々、森口瑤子といった脇役もピタッと決まっていて、破綻がない。

それともう一つ。この映画の製作や宣伝に関わっている友人のFさんが、香川照之の元妻役で写真出演していた。いかにもそれらしかった。

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