パンチカードとナチ
昔から、とにかく本を買う。だから家はいつも本の山だ。当然、買ったけど読まない本も多い。で、最近はその中から読む本を探す。昔はめくっただけで止めたのに、読みたくなる本がある。原克著の新書『悪魔の発明と大衆操作』もその一冊。
副題は「メディア全体主義の誕生」。大学で映画を教えていると、映画史的な分析も重要だが、もっと大きなメディア史的視点が必要だと感じるこの頃なので。
まず驚いたのは、1928年のドイツの週刊誌に載った「ベッドの中で世界旅行」という未来図。ベッドに寝ながら大きなテレビ画面を見ている男の絵がある。手前にはコンピューター画面のようなものがあり、チャンネルの役割のようだ。この本を読んでいた時、福岡のホテルでほとんど同じような事をしていたので、80年以上前の未来図の正しさに驚いた。
もう一つ驚いたのは、1936年のベルリン・オリンピックがドイツ国内にテレビで生中継されていたという事実だ。映画『民族の祭典』と『美の祭典』は有名だし、ラジオ中継の「前畑、頑張れ」も日本で良く知られているが、テレビの生中継とは知らなかった。
さすがに一般家庭にテレビはなかったので、市内25ヶ所の公開テレビホールで、1日3回、2時間ずつ放映されたという。そこはオリンピック会場に入れなかった人々で満員だった。まるで、今のパブリック・ビューイングだ。東京オリンピックがもし予定されていたように4年後に開かれていたら、生放送が行われていた可能性が高いという。
人口調査のために、1882年にパンチカードがアメリカで考案されたこともこの本で知った。カードに開けた穴を通る電流を読み取って、個人のいくつもの情報を集約できるシステムだ。これによって全国民の詳細な情報を一括管理できるようになる。国家による個人情報の管理はこの時に始まっている。
このシステムは20世紀初頭に欧州に広まる。人口調査と同時に列車のダイヤ編成に大きな力を発揮したという。そしてこれがナチス・ドイツのユダヤ人強制連行に使われる。それは名前でなく、番号によって管理される。まさに「悪魔の発明」だ。
おおむね、今の生活は19世紀末から20世紀初頭に設計されている。列車、飛行機、映画、テレビ等々。20世紀末から始まった携帯やネットの世界はどこに行きつくのだろうか。
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