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2012年6月17日 (日)

日本映画に見る戦時中の女性像

最近DVDで見た古い邦画で、戦時中の女性像に妙に感動したのが2本あった。1つは木下恵介の『陸軍』(44)の田中絹代、もう1つは増村保造の『赤い天使』(66)の若尾文子。

木下恵介の映画は陸軍省後援で、44年の12月7日に公開されたいわゆる「プロパガンダ映画」。田中絹代は「軍国の母」だが、後半、その存在感がどんどん大きくなる。川に飛び込めない臆病な息子を叱る場面など、夫役の笠智衆がたじろぐほどだ。

そしてラストの息子の出陣を追いかける有名なシーン。軍人勅語を独り言のように唱える田中のアップから、ラッパの音がして屋も楯もたまらず走り出す。まるで『モロッコ』のラストのディートリッヒみたいだ。ひたすら走る田中をカメラは移動撮影やロングショットで追いかける。それが5分は続き、そこに軍歌がかぶさった時、不覚にも泣いてしまった。

この映画は、実は親子4代を描いている。前半は幕末の下関戦争に始まって、日清戦争後の三国干渉、日露戦争から太平洋戦争に至るまでを足早に描く。そこにあるのは、日本は幕末から何十年も欧米に苛められてきたという「陰謀史観」だ。だから今の戦争は当然という見方を押し付けている。映画としては後半だけをじっくり描いた方がおもしろかったとは思うが。とにかくこれは田中絹代の映画だ。

この映画のラストに陸軍は不満だったとどの映画史の本にも書かれているが、本当だろうか。ならば公開はしなかっただろう。当時の「読売新聞」には絶賛の評が出ているし。当時の日本では「プロパガンダ映画」として通用したのではないか。

『赤い天使』は戦後の作品で、若尾文子が中国の従軍看護婦の西さくらを演じる。彼女が自分の意見を主張する意思の強さや、思い切りの良い行動に圧倒された。芦田伸介演じる軍医を好きになり、性的不能を立ち直らせる。「西が勝ちました」。そして芦田の軍服を身に付けて、「靴!」と命令する。そしてキスマークを付けあう。こちらは、明らかに「戦時の女」のイメージを逸脱している。

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