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2012年6月20日 (水)

それでも必見の映画

外国の監督が日本や日本人を扱うと、まずおかしな映画になる。それこそエジソン初期の芸者の踊りに始まって、最近のアミール・ナデリ監督の『CUT』に至るまで、映画史にはどこか変な作品が並ぶ。ブラジルのヴィセンテ・アモリン監督が終戦直後の日系移民社会を描いた『汚れた心』も、その系譜に連なる。

冒頭に「国賊」という文字がゆっくりと筆で書かれ、「あの戦争で、すべてを失いました」という日本語が聞こえてくる。こりゃ、やはり日本を美化する映画かなと思う。

映画は、終戦直後のブラジルで日本の敗戦を認めない「勝ち組」の日系人社会を描く。日本との国交は42年に断絶しており、正確な情報がないなか、日系人はブラジル政府から弾圧を受ける。「勝ち組」の矛先は、ラジオなどで敗戦の情報を得て事実を認めようとする日系人に向かい、日本人同士の殺し合いが始まる。

何とも見ていて痛々しい。そのうえに演出はいささか大げさで、感情たっぷりの音楽を始めとして、カメラも耽美的だ。まるで「サムライの美学」を讃えているみたいだ。途中でゲンナリしてくるが、それでも最後まで目が離せないのは、この物語が日本人にとって忘れてはならないものだからだ。

20世紀初頭、日本政府の国策で多くの日本人が海外に渡った。ブラジルにはその8割の16万人が移民をした。日本とのつながりがなくなる中で、皇国史観だけは生きるよりどころとして残った。それは戦後も続き、敗戦を認める日本人は「汚い心を持つ国賊」と罵られる。何とも悲しい物語だ。

実は、20年余り前にブラジルに出張して、サンパウロとリオで10日ほど過ごした。毎日日系人の方々のお世話になった。この映画を見て、彼らのことを思い出した。こんな映画が今頃出てきたらさぞ困惑していることだろう。その意味では、このテーマは日本人にはとても撮れないタブーだ。外国人だからこそ撮れた、日本人必見の映画だと思う。

当時を細部まで再現した美術は見ごたえがあるし、伊原剛志、常盤貴子、奥田瑛二、余貴美子らの力演もなかなかだ。7月21日公開。

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