相変わらずのワイズマン
6月30日公開のフレデリック・ワイズマン新作『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』をようやく見た。前作の『パリ・オペラ座のすべて』とほとんど同じ作りで、ひたすら対象に寄り添い、ドラマもなく淡々と細部を見せてゆく。
相変わらずといえば、まさに相変わらず。最初はその平坦な進む具合に退屈しそうになるが、真ん中ぐらいからどんどん面白くなって、2時間14分があっと過ぎてしまうのも、おんなじだ。
最初に女性のあえぎ声の練習シーンが出てきてどきりとするが、その後は「クレイジーホース」という巨大なシステムで働く80人あまりを順々に映し出す。ダンサーたちの練習と本番、演出家と経営陣の果てしない議論、演出家とダンサーの話し合い、衣装を作る人々、公演のシャンパンを準備する人、観客の座席を調整する人、観客の写真を撮る人等々。
カメラを感じさせるようなインタビューはない。衣装係の女性、芸術監督の男性などの話は、あえてほかのメディアのインタビューのシーンを撮る。観客にカメラの存在を感じさせないのが、ワイズマンのやり方だ。まるでカメラが透明人間になったようだが、よく見ているると人々はカメラを意識して、実は演技しているのがわかってくるのもおもしろい。
新人のオーディションのシーンが特に楽しかった。「あのイタリア娘はどうかな」「だめね」といった選ぶ側の小さな声も聞こえてくる。「性転換者は魅力的だがダメだ」「今回はロシア人は何人取った?」。確かにダンサーたちのフランス語は、外国なまりが多い。「あなたもスペイン出身?」というセリフもあったが、一体何割がフランス人なのだろうか。
観客の大半が外国人で、ダンサーの大半も外国人。それをパリが誇るアートとして、同時にビジネスの装置として運営するフランス人たち。そんな全体像がだんだんと見えてくる。大半が劇場の中のせいか、時おり挟み込まれる昼や夜のパリの街のシーンが目に快い。
ヌードショーは、バレエに比べると照明など演出によるところが大きいので、そのぶん『パリ・オペラ座の世界』の方が、より肉体の芸を楽しめるかもしれない。最初と最後に影絵のショーが出てくるのは、映画誕生直前に還ったみたいで、興味深かった。
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