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2012年6月11日 (月)

高橋由一の謎

上野の東京芸術大学美術館で6月24日まで開催中の「高橋由一展」をようやく見た。チラシに例の鮭の絵が大きく載っていて、「ああ、思い出した、あの鮭だ。」と書かれているくらい、この一点で有名な画家だ。しかしその全体像はどうもはっきりしないので、大きな個展を見たかった。

由一と言えば、チラシに書かれている通り「近代洋画の開拓者」である。100点余りをまとめて見ると、「開拓者」というのは大変だったのだな、と思ってしまう。66歳まで生きた生涯のうち、44歳までは江戸時代である。西洋絵画に憧れて、ワーグマンに学んだのが39歳、フォンタネージに師事したのが49歳。

幕末にかけて西洋から入ってくる版画や油絵を見て、次々に真似をしていったのであろう。17世紀のネーデルランド絵画のような静物画もあれば、ロマン主義のような歴史画もある。彼は多くの絵画を写真を見て描いたらしいが、遠近法やリアリズムを糞真面目に実践している絵も多い。

長良川鵜飼の絵が2枚あるが、一方はリアルでもう一方は幻想的だ。西洋絵画の数世紀を一人で往復するような人生だったのかもしれない。印象派のような風景画も数点。もちろんそこに日本的要素も加わる。

そして鮭が3点。紙と麻布と板に描かれている。これが思いのほかデカい。鮭だけで1メートルを超すような、まさに実物大なのだろう。これがいい絵かどうか、何だかわからない。なぜこんな鮭を何枚も描いたのか。そしてなぜこれがその後評価されるに至ったのか。謎ばかりだ。

図録の年表を見ていると、晩年の明治10年代から20年代にかけて、国内に国粋主義的傾向が強まり、彼の洋画運動が困難になったことがわかる。待望の東京美術学校は、日本画を擁護するフェノロサや岡倉天心に牛耳られ、一方で黒田清輝や久米桂一郎は渡仏する。どんな気持ちだっただろうか。

図録をパラパラと見ていたら、実物大の鮭の絵の複製が折り畳んで挟まっていたのに驚いた。1メートルを越す巨大な鮭の絵を壁に貼って、高橋由一の謎をしばらく考えたい。

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