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2012年7月 4日 (水)

西川美和の新作に当惑

西川美和は、『蛇イチゴ』以来、『ゆれる』、『ディア・ドクター』と毎回完成度の高い繊細な作品を発表してきた監督だ。ところが9月8日公開の『夢売るふたり』を見て当惑してしまった。正直に言うと、「はずしてしまった」感じだ。

なんせ、松たか子と阿部サダヲが夫婦で結婚詐欺をする、というのだから期待してしまった。『ディア・ドクター』を上回る、痛快でリアルな詐欺師ぶりが見られるかと期待した。

ところがこの映画には、そのような仕掛けの楽しさはない。阿部サダヲと松たか子が演じる夫妻は仲良く小料理屋を営んでいるが、そこが火事になってすべてを失い、再出発のために結婚詐欺を始める。妻の筋書きに乗っとって、独身を装う夫は孤独な女性たちから、お金を巻き上げる。

それが私には乗れなかった。阿部の騙し方、女たちの騙され方がどうも安易に見えた。女たちのそれぞれの事情がリアルに描かれているのに、大金を渡すに至る決心の過程が見えない。そして阿部も詐欺がうまくいって喜んでいる感じがしない。

松たか子も、夫に結婚詐欺に成功して楽しんでいる感じがない。要は愛し合っている普通の夫婦なのに、こんなとんでもないことをしそうな気がしないのだ。

後半、私立探偵役の鶴瓶が出てきたところから、トーンは一転する。この人が画面を食ってしまう。そして意外な結末に向かうわけだが、これもちょっと唐突過ぎる。

撮影はかつてないほどすばらしい。現在の東京を点描のようにとらえてゆくショットの連なりには息を飲む。夫婦が並んで自転車をこぐシーンなどにかぶさるギターの音色も絶妙だ。そして、登場人物たちが細部に至るまで生き生きしている。特にウエイトリフティング選手役の江原由夏は、本物かと思うくらいだ。もちろん松たか子も阿部サダヲも、映画そのものを生きている。

私には演出の完成度の高さがテーマに合っていないような気がしたが、これはたぶん監督が意図したことだろう。ひょっとすると、女性を中心に高い評価を与える人が出そうな予感がする。いずれにせよ、西川監督の転機となる作品であることは間違いない。

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