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2012年8月 9日 (木)

アリス・ギイを楽しむ

最近、機会があってアリス・ギイの映画をまとめて見た。アリス・ギイと言えば、「世界最初の女性監督」として有名だが、製作していた期間は何とメリエスと重なる。見たのは、フランスで発売されている2巻からなるBOX「ゴーモン社初期映画集」Gaumont cinema premierのなかのアリス・ギー関連2枚で、全体で4時間近い。

これが予想以上に楽しかった。彼女の作品では、キャベツ畑から赤ちゃんを取り出す『キャベツ畑の妖精』(1900)が有名だが、さらに凝った別バージョンで『高級助産院』(1902)というのがある。子供のできない夫婦が人形を買いに行くが、好きな人形がない。すると販売員はにっこりと「関係者のみ」の戸を開け、そこにはキャベツ畑があって、よりどりみどりに赤ちゃんを選べるのだった。2人目に黒人の赤ん坊が出てきて、「いやっ」と断るシーンもすごい。好みの赤ん坊を見つけた夫婦は、ちゃんとお金を払って出てゆく。

もちろんフェミニズムというような考えはないのだが、キャベツ畑のシリーズに見られるように、女性の欲望を素直に見せる作品が楽しい。お金を払うようなリアルなシーンも省いていない。

『いらぬ世話』(1902)は、夫婦喧嘩を止めようとしたお手伝いさんが、いつのまにか夫人と喧嘩をしてしまうというもの。女性同士が髪をつかみ合うシーンは、なかなか男性には撮れないだろう。

『くっつく女』(1906)は、郵便局で貴婦人が切手を貼るのに、お手伝いさんは舌を出して切手を濡らす役割を押し付けられる。何枚も切手をなめているうちに口の中は糊だらけになり、貴婦人の夫とすれ違って唇が触れると、取れなくなってしまう。ばかばかしいが、お手伝いさんの怨念がこもったようなところがある。

『マダムの欲望』(1906)は、妊娠中の女性が、見ると何でも食べたくなってしまう話。他人が飲んでいるアルコールをこっそり飲んだりする時の、このうえなく満足そうな女性の顔のアップがすごい。

最高なのは『フェミニズムの結果』(1906)。女性を大事にしすぎる世の男性たちは、家で子供の世話をし、食事を作る。女たちはカフェでたむろしている。子供を連れてカフェに妻に会いに来た男があるきっかけでキレて、女をなぐる。それに触発された男たちは、カフェに押し寄せて妻たちを子供と共に帰らせる。そして男たちだけでカフェで飲み始める。

題名の「フェミニズム」は原題もfeminismeだが、もちろん現代的な意味ではあるまい。ここでは「女性を大事にしすぎた結果」くらいの意味だろうか。アリス・ギイ、予想以上に奥が深い。

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