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2012年8月29日 (水)

『ぼくたちのムッシュ・ラザール』の小さな輝き

2週間ほど前に公開したカナダ映画『ぼくたちのムッシュ・ラザール』を見た。朝日で秦早穂子さんが好意的な評を書いていたのが記憶に残っていたからだ。最近『プロメテウス』『トータル・リコール』とハリウッドの大作を立て続けに劇場で見た反動もある。

カナダの小学校で女教師が首を吊り、その代わりにアルジェリア出身の中年男ラザールが雇われる。映画は事件の余波とラザールの対応を淡々とつづったものだ。監督も俳優も無名の95分の小品だが、見た後に忘れられない輝きがある。

新米の教師が現れて、生徒の名前を呼ばせて一つずつ書きとってゆく瞬間から、生徒たちとラザール先生の緊張感あるコミュニケーションに引き入れられる。死んだマルチーヌ先生はこうじゃなかった、と言われながらも昔ながらの教育をするラザール。

アリスがマルチーヌ先生の死を素直に語る作文を読んだり、シモンがマルチーヌ先生との確執の真実を語る瞬間に、教室の中に本当に緊張感が張り詰める。ラザール先生は何とか落ち着いて切り抜けるが、父兄に抗議されたりもする。

ラザール先生自身も、家族を亡くし、難民としてカナダに来た暗い過去を持つ。最後はそのことが理由ですべてに幕が下りる。

生徒も先生もみんなが問題を抱えていて、何とか懸命に互いに支えて乗り越えていこうとする。その痛々しさが、見る側に自然に伝わってきて、何となくひとごとではなくなってくる。

個人的には、3年半前に最初に大学で授業を始めた時を思い出した。相手は小学生ではなく大学生だが、生徒との相互不信や緊張感は同じだ。バシール先生がアルジェリアから来て「基本のき」を教えたように、会社員生活22年の私も、張り切って基本を教えようとして、軋轢を作った。実はその模索は、今も続いている。

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