« 何とも懐かしい『銀の匙』 | トップページ | 戦後の合作映画は珍品揃いか(1)『楊貴妃』 »

2012年9月29日 (土)

映画『サンライズ』の思い出

先日、ムルナウの傑作『サンライズ』(1927)を見直していて、あることを思い出した。26年前のちょうど今頃の季節に、フランスの国立映画学校の入試を受けた時のことだ。1次に通った後、2次試験は筆記と面接で、筆記でこの映画の一シーンが出た。

『サンライズ』は、都会の女に誘惑された田舎に住む男が、妻を殺そうとするが果たせず、時間をかけて妻の愛を取り戻す物語だ。試験に出たのは、ボートの上で夫に首を絞められそうになった妻が逃げ出し、泣きながら通りかかる電車に乗るという、この映画の最も感動的なシーン。

夫は妻を追いかけて列車に飛び乗るが、妻は泣くばかり。窓の外には森や海が見えてきて、次第に都会の風景になる。夫と妻のそれぞれの心の闇に呼応する車内の濃い影と、窓の外のまぶしい光の強いコントラスト。見つめ合わない2人の視線がそれぞれに見る風景が痛々しく、観客の心に突き刺さる。そして列車は都会の真ん中で止まる。妻は走り出す。

たぶん10分くらいだろう。試験問題は「このシーンを見て分析せよ」だった。映画の題名も監督名も明示されたが、私はこの作品も含めて、ムルナウの映画を当時1本も見ていなかった。

フランス人の受験生は「ミュルノー、ミュルノー」とつぶやきながら(フランス人はムルナウをこう発音する)、何だかこの映画をみんな知っているようだった。この男女が夫婦であることさえわからなかった私は、嫌われても女を追いかける執念を持った男という分析をした。そしてこの筆記で落ちた。ちなみに翌日の面接は高得点だったが。

もし通っていたら、どうなっただろうか。その時はちょうど国立映画学校が従来のIDHECが今のFEMISに改組された年なので、入っていたらフランソワ・オゾンと同級生だったことになる。私が受けたのはプロデューサーコースだったが。ひょっとすると、そのままフランスのテレビ局あたりに勤めていたかもしれない。

そう考えると、通らなくて正解だった気もする。人生、何がいいかわからないが。

|

« 何とも懐かしい『銀の匙』 | トップページ | 戦後の合作映画は珍品揃いか(1)『楊貴妃』 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/55769027

この記事へのトラックバック一覧です: 映画『サンライズ』の思い出:

« 何とも懐かしい『銀の匙』 | トップページ | 戦後の合作映画は珍品揃いか(1)『楊貴妃』 »