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2012年9月27日 (木)

反時代的な『白夜』公開

10月27日からリバイバル公開されるロベール・ブレッソン監督『白夜』(1971)を見た。35ミリのニュープリントだったが、昨今のデジタル上映に慣れてしまった目には、とてつもなく反時代的なものに見えた。

もともとブレッソンの映画はわかりやすいものではない。しかし『抵抗』(56)から『ジャンヌ・ダルク裁判』(62)や『少女ムシェット』(67)までは、その切り詰めた最小限の表現が、クラシック音楽とあいまって、白黒の画面にふさわしい厳かな宗教性を生み出していた。

ところが、この作品はカラーでそのうえ現代のパリが舞台だ。そんな逃げようがない場所で、ブレッソンは映像と物語をそぎ落とし、同時に繰り返す。

物語は、若い男女ジャックとマルトがセーヌ川のポンヌフ橋で出会う4日間を描く。2日目、2人はそれぞれについて語る。ジャックは絵を描く毎日を、マルトは母との生活を語る。マルトは自宅に下宿していた男と、一年後にその橋で会う約束をしていたのだった。4日目になって、約束した男は現れる。

ブレッソンの映画だから、登場人物の心理描写はない。突然好きになり、突然去ってゆく。セリフはまるで棒読みで、感情も見えない。そのナイナイ尽くしの奥底から、とんでもない激情が垣間見える。マルトとの出会いをテープで録音し、何度も聞くジャック。「マルト、マルト」と彼女を呼ぶ声を自分で繰り返し聞くジャック。

部屋の中で急にスルリと裸になって美しい胸と尻を見せ、そして服を着て荷物を持って男の部屋を訪れるマルト。4日目、ジャックはマルトに赤いスカーフをプレゼントする。正確に言うと、ジャックが店でマルトの首に巻いてあげたら、(勘定をするシーンもなしに)マルトはすいすい歩き出す。愛が溢れ出る瞬間。

クラシックではなく、ヒッピーのギターやオーボエの音と共に、セーヌ川を進むバトー・ムーシュの硬質な美しさといったら。光は四方にきらめき、川や街並みや人々に反射し、究極の愛に襲われた宇宙人のようなジャックとマルトを取り囲む。

この繊細極まりない映画を35ミリプリントで見ると、昨今の映画のデジタル化が何とも野蛮な行為に見えてくる。

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